ネムロスゲ

ネムロスゲ（Carex gmelinii）の概要

ネムロスゲはカヤツリグサ科スゲ属に属する植物であり、主に寒冷地の海岸に生育します。この多年生草本は、周囲の環境に適応しながら特異な花序を持つことで知られています。根が短い根茎から茎や葉を束状に出し、基部の鞘は暗赤色に変色します。葉は幅が3～5mm程度で、花茎は高さが30～70cmに達することがあり、通常は葉よりも短くなっています。

特徴と花序の構造

ネムロスゲの花期は6月から7月にかけてで、この時期に3～5個の小穂を持つ総状花序が形成されます。頂小穂は雌雄性で、雌花部が先端に、雄花部が根元側に位置しています。この構造により、根元が細く、先端で急に太くなります。一方、側小穂は雌性で、長さは1.5～3cmほどです。花序や小穂はやや垂れ下がり、最下の苞は葉状となりますが、鞘はありません。

雄花鱗片は長卵形で紫紅色を呈し、先端は尖った芒となって突き出しています。一方、雌花鱗片は卵形で黒褐色、果包よりも短い形状です。果包は長さが4～5mm、扁平な楕円形をしており、先端が急に短い嘴状に突き出し、その部分の口部はなめらかです。果包自体は無毛で光沢があり、初めは黄褐色から徐々に褐色へと変わります。内部には長さ2～2.5mmの倒卵形の痩果があり、果包に緩く包まれています。

分布と生育環境

日本国内では主に北海道や本州の青森県、岩手県で見られるほか、国外ではサハリンや千島、朝鮮北部やカムチャッカ、アラスカ、アメリカ北西部に至るまで広範囲に分布しています。ネムロスゲは特に海岸の砂地に生息する草原に多く見られ、その生育環境は特異な生態系を形成しています。

分類と類似種

ネムロスゲは頂小穂が雌雄性で、側小穂が雌性であること、苞に鞘がないこと、果包がほぼ無毛であり、柱頭が3裂することなどから、クロボスゲ節（Sect. Racemosae）に属することが確認されています。この節には日本国内に約18種が存在し、似たような種としてはクロボスゲが挙げられます。

本種の頂小穂の雌雄性や果包の扁平さ、さらには雌花鱗片の芒状突起などの特徴から、他の種と明確に区別できます。また、生態的にも海浜植物としての特性があるため、識別しやすいポイントとなっています。

保護の状況

環境省が発行しているレッドデータブックでは、ネムロスゲは準絶滅危惧種に指定されています。青森県では絶滅危惧II類に、岩手県では絶滅危惧I類に指定されており、その個体数は少なく、環境変化や人為的な影響を受けやすい状態です。特に岩手県では記録が少なく、海岸整備などの影響で絶滅の危険性が高まっています。

近年、特に東日本大震災以降の影響により、岩手県の生育状況が不明なままです。青森県においても、少数の産地が存在するものの、釣り客の踏みつけや漂着ゴミなどの影響が懸念されています。これらの要因が重なり、今後の保護に向けた取り組みが急務とされています。

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