ネレトバの戦い (映画)

ネレトバの戦い

1969年に旧ユーゴスラビアで製作された戦争映画『ネレトバの戦い』（原題：Bitka na Neretvi）は、第二次世界大戦中に実際に起こった激戦、1943年の「ネレトヴァの戦い」を題材としています。ヴェリコ・ブライーチが監督を務め、彼自身とステバン・ブライーチが脚本を手がけました。この作品は、絶望的な状況下で生き残りをかけたパルチザンの戦いを、壮大なスケールで描いています。

描かれた歴史的な戦い

映画の基となったネレトヴァの戦いは、1943年春にユーゴスラビアで繰り広げられました。これは、ドイツ、イタリア、クロアチア独立国といった枢軸国が、パルチザン勢力の一掃を目指して合同で実行した戦略的掃討作戦の一部であり、「第4次攻勢」としても知られています。主戦場となったのは、現在のボスニア・ヘルツェゴビナを流れるネレトヴァ川の流域でした。この戦闘において、数の上で圧倒的に不利だったパルチザン部隊は、巧妙な戦術によって敵の包囲網をかいくぐり、壊滅を免れることに成功。これは、その後の最終的な勝利へと繋がる重要な転換点の一つとなりました。

物語の概要

物語は、1943年に枢軸軍がパルチザンの根絶を目的とした一大作戦を開始する場面から展開します。ドイツ軍、イタリア軍、クロアチア独立国のウスタシャ部隊、そしてセルビア王党派のチェトニックで構成された総勢15万の枢軸軍は、約3万人のパルチザンと彼らに同行する避難民を、ネレトヴァ川の西岸にある狭い谷間へと追い詰めます。パルチザンは、負傷者や病人を多数収容した野戦病院を抱えており、チトー元帥の「負傷者も病人すべてを連れていく」という方針のもと、彼らを敵の手に渡すまいと必死でした。なぜなら、敵に捕らえられた者は全員が処刑される運命にあったからです。病院ではチフスが発生するなど、その状況はまさに絶望的でした。

枢軸軍は、パルチザンをネレトヴァ川の両岸から挟み撃ちにしようと万全の態勢を敷いていました。しかし、パルチザンは大胆な策に出ます。彼らは、自らが渡って脱出するはずだった東岸側の橋を、敵の目の前で爆破したのです。この不可解な行動を、パルチザンが西岸の敵に対する玉砕突撃を企てているサインと誤認した枢軸軍は、主力を西岸に集結させるため大規模な部隊の再配置を開始しました。しかし、これこそがパルチザンの巧妙な罠でした。枢軸軍が動き、東岸側の戦力が手薄になった隙を突き、パルチザン部隊は爆破した橋に短時間で仮橋を架け、一気に東岸への渡河を敢行します。ドイツ空軍による激しい爆撃も、谷間の地形が狭いことから効果は限定的でした。こうしてパルチザンは、絶望的な状況から脱出し、生き延びることに成功するのです。

製作の舞台裏とスケール

本作は、製作当時、ユーゴスラビア映画としては史上最大の製作費が投じられた作品としても知られています。その壮大な戦闘シーンを再現するため、ユーゴスラビア人民軍が全面的な協力を惜しまず、およそ1万人の兵士がエキストラとして参加しました。個人装備や小火器には、第二次世界大戦中に実際に使用され、人民軍が鹵獲した本物がそのまま小道具として多数活用されました。しかし、ドイツ製の戦車のような大型装甲車両は数が限られており、撮影に用いることは困難でした。そこで、人民軍の主力戦車であるソ連製T-34-85を改造し、ドイツの重戦車タイガーIに似せた「改造タイガー戦車」が製作されることになりました。タイガー戦車の迫力ある外見を再現するため、T-34-85の車体や砲塔にはタイガー戦車を模した外装が大がかりに取り付けられました。これらの改造戦車は、本作の撮影に複数台が投入されただけでなく、その後製作されたユーゴスラビア映画『風雪の太陽』や、ユーゴスラビアで撮影されたアメリカ映画『戦略大作戦』など、他の戦争映画でも再利用されています。

国際的な評価と日本での展開

『ネレトバの戦い』は、そのスペクタクルと重厚なドラマが高く評価され、国際的な注目を浴びました。特に、アカデミー外国語映画賞にはユーゴスラビア代表としてノミネートされています。また、本作の英語版のためにパブロ・ピカソがポスターを制作したことでも有名です。

日本では、1970年代にTBSの『月曜ロードショー』で前後編に分けてテレビ初放送され、その後もテレビ朝日『日曜洋画劇場』などで放送されて多くの人々に知られるようになりました。長らく国内での正規DVDリリースはありませんでしたが、2010年にイギリスで英語字幕版が発売された後、2013年には株式会社アネックから日本語字幕付きのデジタルリマスター版とインターナショナル版が2枚組セットで国内発売され、現在は家庭で鑑賞することが可能となっています。

興味深いトリビアとして、本作で重要な役を演じたヴラド役のユル・ブリンナーと、チェトニック評議員役のオーソン・ウェルズが、奇しくも1985年 10月10日の同じ日に亡くなっているというエピソードが語られています。

もう一度検索