ネヴァーセイダイ

ネヴァーセイダイ：伝説の二冠馬とその血脈

ネヴァーセイダイ (Never Say Die, 1951年生まれ) は、アメリカで生まれたサラブレッド競走馬であり、種牡馬として名を馳せました。イギリスのクラシック二冠（ダービー、セントレジャー）を制覇した輝かしい経歴を持つ一方で、その生涯は数々のドラマと偶然に彩られています。本稿では、競走馬としての活躍から種牡馬としての成功、そして日本競馬界への多大なる影響までを詳細に解説します。

奇跡の誕生と波乱の競走生活

ネヴァーセイダイの誕生は、まさに奇跡的でした。小柄な母馬シンギンググラスとの難産で、生まれたばかりの彼は瀕死の状態でした。ウィスキーを飲ませられ、なんとか一命を取り留めたことから、「死ぬな！」を意味する「Never Say Die」と命名されました。この名前は、彼の人生を象徴する言葉となるのです。

競走馬としてのネヴァーセイダイは、その能力の高さとは裏腹に、ムラのある走りを見せました。デビューは低評価でしたが、ロスリンステークスで初勝利を収めると、イギリスの重要な2歳戦であるデューハーストステークスで3着に入るなど、潜在能力の高さを示唆しました。しかし、本格的な活躍は3歳になってからです。

3歳時のダービーステークスでは、34倍という大穴人気ながら、見事優勝。アメリカ産馬がイギリスダービーを制するのは80年ぶりでした。これは、20世紀初頭にアメリカ血統の出走を制限したジャージー規則が1949年に廃止された後の出来事であり、ネヴァーセイダイの勝利は、その象徴的な出来事と言えます。さらに、このダービーでの勝利は、ビートルズ誕生にも影響を与えたという、興味深いエピソードも残されています。リヴァプールに住む女性がネヴァーセイダイの馬券で高額当選し、そのお金で建てた屋敷の地下室が、後にビートルズの活動拠点「カスバー・コーヒークラブ」となったのです。

ダービー後、アスコット競馬場のキングエドワード7世ステークスでは、他の馬の尻を噛みつくという荒っぽい行為により騎乗停止処分を受けるなど、気性の激しさも見せました。しかし、セントレジャーステークスでは12馬身差という圧倒的な勝利を収め、クラシック二冠を達成しました。

種牡馬としての成功と日本の競馬界への影響

競走馬引退後、ネヴァーセイダイはイギリスで種牡馬となりました。馬主の強い意志により、彼はアメリカではなくイギリスに留まり、数々の産駒を輩出しました。1962年には、産駒のラークスパーがダービーを制したことで、リーディングサイアー（種牡馬ランキング1位）に輝きました。

しかし、ネヴァーセイダイ自身の種牡馬としての成功は、ラークスパーに限らず、他の産駒ではそこまで顕著ではありませんでした。しかし、彼の産駒は世界中に輸出され、特に日本では大成功を収めます。ダイハード、シプリアニ、ネヴァービートなどの産駒が、日本競馬界で数々の活躍馬を輩出し、1960年代から1970年代には「ネヴァーセイダイ系」がブームを巻き起こしました。ネヴァービートは幾度も日本リーディングサイアーに輝くなど、その影響は計り知れません。

しかし、このブームは長くは続きませんでした。1980年代には、父系としては衰退の一途を辿り、現在ではその系統はほとんど途絶えています。それでも、ネヴァーセイダイの血は、日本競馬界の礎を築いた重要な存在として、その名を刻み続けているのです。

複雑で興味深い血統背景

ネヴァーセイダイの血統には、第一次世界大戦と第二次世界大戦の影響が色濃く反映されています。彼の母系は、イギリス、アメリカ、フランスを行き来しながら繁栄してきた、国際的な血統です。高祖母サンステップから始まり、曽祖母ガラディ、大伯母ガラテア、祖母ボレアーレと、各世代の牝馬たちは、当時の名種牡馬たちとの交配を経て、ネヴァーセイダイという偉大な血統を築き上げていきました。

この複雑な血統背景は、ネヴァーセイダイの能力の高さと、そのムラのある性格を同時に説明するのかもしれません。彼の物語は、競走馬、種牡馬としての成功にとどまらず、国際的なサラブレッドの歴史、そして日本競馬界の歴史において、重要な一ページを飾るものと言えるでしょう。

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