ネヴィル・ブラザーズ

ネヴィル・ブラザーズは、アメリカ合衆国ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のネヴィル家4人兄弟によって1977年に結成された、伝説的なR&Bグループです。アート、チャールズ、アーロン、シリルの各メンバーは、バンド結成以前から既に個々に輝かしいキャリアを築いていました。

来歴

グループが正式に活動を開始したのは1977年ですが、その前史は各兄弟の個別の音楽活動に遡ります。最年長のアートは、高校生の頃からホーケッツに参加し、1954年には地元で知られる楽曲「Mardi Gras Mambo」をリリースしました。このホーケッツには、後にアーロンとチャールズも名を連ねています。アートは1960年代半ば、ジョージ・ポーターJr.らと共にミーターズを結成。このバンドはニューオーリンズ・ファンクの代表格として世界的な評価を得るようになります。ミーターズの後期には、末弟のシリルもメンバーに加わりました。

一方、アーロンは1966年にソロシンガーとして「Tell It Like It Is」を発表。この曲はR&Bチャートの首位を獲得する大ヒットとなり、彼の名を広く知らしめました。チャールズは、伝説的なデュー・ドロップ・インのハウスバンドで活動し、ジェイムズ・ブッカー、アラン・トゥーサン、ヒューイ・"ピアノ"・スミスといったニューオーリンズ音楽界の巨匠たちと数多くのセッションを経験しました。

彼らがネヴィル・ブラザーズとして共に活動する直接的なきっかけとなったのは、1976年に彼らの伯父であるビッグ・チーフ・ジョリー率いるインディアン・グループ、ワイルド・チャピトゥーラスのバックバンドを務めたことです。この共演を経て、1977年にネヴィル・ブラザーズが正式に始動しました。

1978年には、キャピトル・レコードからデビューアルバム『ネヴィル・ブラザーズ』をリリース。その後、A&Mレコードに移籍し、1981年にベット・ミドラーとの仕事で知られるプロデューサー、ジョエル・ドーンを迎えて制作したアルバム『ファイヨー・オン・ザ・バイユー』を発表しました。この作品は評論家からは高い評価を得ましたが、商業的な成功には繋がりませんでした。これにより、A&Mとの契約は一旦終了します。

1987年にEMIからリリースされたアルバム『アップタウン』には、ブランフォード・マルサリス、キース・リチャーズ、カルロス・サンタナなど豪華ゲストが参加しましたが、残念ながら大きなヒットには至らず、バンドは再びA&Mレコードに戻ります。そして1989年、プロデューサーにダニエル・ラノワを迎えて制作されたアルバム『イエロー・ムーン』が転機となります。このアルバムは高い評価を得て、収録曲「Healing Chant」はグラミー賞のベスト・ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス部門を受賞しました。

1990年には、映画『バード・オン・ワイヤー』のサウンドトラックにレナード・コーエンのカヴァーを提供。この楽曲はニュージーランドのシングルチャートで5位を記録するヒットとなりました。1992年のアルバム『ファミリー・グルーヴ』からの先行シングル、スティーヴ・ミラー・バンドのカヴァー「フライ・ライク・アン・イーグル」も、ニュージーランドで再びトップ10入りを果たし、最高8位を記録しています。

2000年頃からアートの体調が優れなくなり、グループの活動ペースは緩やかになりますが、2004年には久々のアルバム『シャドウ・オブ・ライフ』をリリースし、精力的な活動を披露しました。ニューオーリンズに居住していたアート、アーロン、シリルでしたが、2005年のハリケーン・カトリーナによって自宅を失うという大きな被害を受けました。アーロンはナッシュビルへ、シリルはオースティンへそれぞれ移住を余儀なくされます。

特にアーロンは、ハリケーン後のニューオーリンズの劣悪な空気環境が喘息の持病に影響すると懸念し、故郷への帰還を見合わせました。これにより、カトリーナ以降、ネヴィル・ブラザーズとしてのニューオーリンズ公演が長らく行われませんでした。かつてニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルでクロージングアクトを務めるのが恒例だった彼らも、2006年と2007年は出演を見合わせましたが、2008年には被災後初めての出演を果たしました。

2008年 10月には約12年ぶりの来日公演を実現させ、日本のファンを熱狂させました。翌2009年 7月には、フジロックフェスティバルに初出演。激しい雨が降る中、初日のホワイトステージのトリを見事に飾りました。

2012年8月1日、ハリウッド・ボウルで行われたコンサートを「The Neville Brothers Farewell Tour」と銘打ち、グループとしての活動に一区切りをつけました。その後、アーロンがソロ活動に専念するためグループから離脱。残るアート、チャールズ、シリルの3人は、The Nevillesという名義で活動を継続しました。

2015年5月2日、ニューオーリンズのセンガー劇場で開催されたトリビュートコンサート「ネヴィル・フォーエヴァー」において、約3年ぶりに4人全員が同じステージに立ちました。これは、彼らの故郷での公式なフェアウェルコンサートという形となりました。

残念ながら、メンバーの訃報が続きます。チャールズは2018年 4月26日にすい臓がんのため79歳で死去。その翌年、2019年 7月22日にはアートが81歳でこの世を去りました。現在も存命なのはアーロンとシリルですが、アーロンは2021年に80歳を迎えたのを機に、ライブ活動からの引退を表明しています。2024年現在、ソロとしてツアーを含む音楽活動を継続しているのは、シリルただ一人となっています。

彼らネヴィル・ブラザーズは、ニューオーリンズ音楽の豊かさと多様性を体現し、R&B、ファンク、ソウル、レゲエ、ジャズなど、ジャンルを超えたサウンドで、数世代にわたる音楽ファンに大きな影響を与え続けました。彼らの音楽は、故郷ニューオーリンズの魂と共に生き続けています。

メンバー

アート・ネヴィル (Art Neville) - キーボード、ボーカル (1937年12月17日-2019年 7月22日)
チャールズ・ネヴィル (Charles Neville) - サックス (1938年 12月28日-2018年 4月26日)
アーロン・ネヴィル (Aaron Neville) - ボーカル、タンバリン (1941年 1月24日生まれ)
シリル・ネヴィル (Cyril Neville) - パーカッション、ボーカル (1948年 10月10日生まれ)

※全員ニューオーリンズ生まれ。アーロンの息子、アイヴァン・ネヴィルがツアーメンバーとして参加した時期もありました。

スタジオ・アルバム

1978年『ネヴィル・ブラザーズ』 (The Neville Brothers) (Capitol)
1981年『ファイヨー・オン・ザ・バイユー』 (Fiyo on the Bayou) (A&M)
1987年『アップタウン』 (Uptown) (EMI)
1989年『イエロー・ムーン』 (Yellow Moon) (A&M)
1990年『ブラザーズ・キーパー』 (Brother's Keeper) (A&M)
1992年『ファミリー・グルーヴ』 (Family Groove) (A&M)
1996年『ミタケ・オヤシン・オヤシン〜オール・マイ・リレイションズ』 (Mitakuye Oyasin/All My Relations) (A&M)
1999年『ヴァレンス・ストリート』 (Valence Street) (Columbia)
2004年『シャドウ・オブ・ライフ』 (Walkin' In The Shadow Of Life) (Back Porch)

ライブ・アルバム

1984年『ネヴィライゼーション』 (Neville-ization) (Black Top)
1987年『ライヴ・アット・ティピティナス』 (Nevillization 2 (Live at Tipitina's Volume 2)) (Spindletop)
1994年『ライヴ・オン・プラネット・アース』 (Live on Planet Earth) (A&M)
2010年 Authorized Bootleg: Warfield Theatre, San Francisco, CA, February 27, 1989 (A&M)
2019年『グレート・アメリカン・レディオ Vol.3』 (Great American Radio Vol. 3 - Telluride Jazz Festival, Colorado, June 8, 2008) (Floating World)

コンピレーション・アルバム

1986年 Treacherous: A History of The Neville Brothers (1955–1985) (Rhino)
1991年 Treacherous Too!: A History of the Neville Brothers, Vol. 2 (1955-1987) (Rhino)
1991年『グレイテスト・ヒッツ』 (Greatest Hits) (A&M)
1997年 The Very Best of the Neville Brothers (Rhino)
1999年 Uptown Rulin’ – The Best of the Neville Brothers (A&M)
2004年 20th Century Masters – The Millenium Collection: The Best of The Neville Brothers (A&M)
* 2005年 Gold (Hip-O/UMe)

もう一度検索