ネーベルヴェルファー

ネーベルヴェルファー：第二次世界大戦の多連装ロケット砲

ネーベルヴェルファー（Nebelwerfer）は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツで開発された多連装ロケット砲の総称です。「煙幕発射器」を意味するこの名称は、兵器開発が制限されていたヴェルサイユ条約下でロケット兵器を秘匿するための偽装名として用いられました。しかし、その実態は、当初の毒ガス弾投射機としての役割から、広範囲への制圧射撃を目的としたロケット砲へと発展していきました。

開発経緯

1930年代頃、ドイツは地上戦でのロケット利用研究を開始しました。ロケット弾は発射時の反動が小さく、発射機を軽量化できるという利点があります。また、多連装化が容易なため、通常の火砲に比べて一度に大量の弾薬を投射できます。初期には迫撃砲形式のネーベルヴェルファーも存在しましたが、ロケット弾形式の採用により、その投射能力は飛躍的に向上しました。

例えば、迫撃砲型のネーベルヴェルファー（NbW35/40）では、1個中隊12門の初弾は105mm弾12発でしたが、ロケット弾形式のNbW41では、12門で150mm弾72発と、口径だけでなく投射量も大幅に増加しました。この特性から、短時間で広範囲を制圧する毒ガス攻撃に最適とされ、化学戦部隊であるネーベルトルッペンによって実用化が進められました。

ドイツのロケット弾は、他国で主流だった安定翼付きではなく、底部に開けられた斜め噴射口によるスピン方式を採用しました。この方式は構造が複雑になるものの、横風の影響を受けにくく、集弾性に優れていました。命中精度は必ずしも重視されませんでしたが、毒ガス散布の効率を上げるためには、着弾範囲が広がりすぎるのを防ぐ必要がありました。

宣伝用のロケット弾投射機を経て、1941年に実戦向け初のネーベルヴェルファー「15cm NbW41」が制式化されました。

ネーベルヴェルファーの登場と種類

1941年、ドイツ軍は150mm口径のロケット発射機を環状に6門配置したコンパクトなロケットランチャーを完成させました。しかし、命中精度が低く、発射音や煙が目立つという欠点もありました。後に推進剤が改良され、これらの問題は改善されました。

ネーベルヴェルファーには、以下の6種類が存在します。

15cm ネーベルヴェルファー41型: 15cmロケット榴弾を発射する6連装。
21cm ネーベルヴェルファー42型: 21cmロケット榴弾を発射する5連装。15cmロケット弾も使用可能。
28/32cm ネーベルヴェルファー41型: 28cmロケット榴弾および32cmロケット焼夷弾を発射する6連装。
30cm ネーベルヴェルファー42型: 30cmロケット榴弾を発射する6連装。
10cm ネーベルヴェルファー35型: 迫撃砲形式の10cmネーベルヴェルファー。
10cm ネーベルヴェルファー40型: 榴弾砲に似た形式で高角度射撃が可能な10cmネーベルヴェルファー。

実戦投入とその後

ネーベルヴェルファーは、主に東部戦線に投入され、その制圧能力を発揮しました。命中精度は低いものの、ソ連軍のロケット弾よりも威力と射程に優れていました。しかし、野砲に比べて射程が短く、前線での直接戦闘による損害も大きかったため、自走化されたパンツァーヴェルファーが開発されました。また、21cmロケット弾は迎撃戦闘機に搭載され、爆撃機編隊攻撃にも用いられました。

戦車兵オットー・カリウスは、ネーベルヴェルファーの誤射で味方歩兵が甚大な被害を受けたことを記録しており、その威力を物語っています。

ネーベルヴェルファーのデータ

15cm ネーベルヴェルファー41型
砲身内径：158.5mm
砲身長：1,300mm
全長：3,600mm
重量：590kg（未装填）
15cmロケット榴弾41型
直径：158mm
全長：979mm
重量：31.8kg
最大射程：6,900m

21cm ネーベルヴェルファー42型
砲身内径：214.5mm
砲身長：1,300mm
全長：3,600mm
重量：605kg（未装填）
21cmロケット榴弾42型
直径：210mm
全長：1,249.9mm
重量：109.55kg
最大射程：9,150m

28/32cm ネーベルヴェルファー41型
全長：3,200mm
重量：1,130kg（未装填）
28cmロケット榴弾
直径：280mm
全長：1,190mm
重量：82.2kg
射程：2,138m
32cmロケット焼夷弾
直径：320mm
全長：1,289mm
重量：79kg
射程：2,028m

30cm ネーベルヴェルファー42型
全長：3,200mm
重量：1,144kg（装填時）
30cmロケット榴弾
直径：300mm
全長：1,230mm
重量：125.7kg
射程：6,000m

10cm ネーベルヴェルファー35型
口径：105mm
砲身長：1,207mm
重量：102.6kg
最大射程：3,000m
砲弾重量：7.36kg

10cm ネーベルヴェルファー40型
口径：105mm
砲身長：1,720mm
重量：800kg
最大射程：6,225-6,350m
砲弾重量：8.6kg(榴弾), 8.9kg(発煙弾)

登場作品

ネーベルヴェルファーは、以下の作品に登場します。

アニメ・漫画: 『紺碧の艦隊』
ゲーム:
『Company of Heroes』
『コール オブ デューティシリーズ』
『メダル・オブ・オナーシリーズ』
『トータル・タンク・シミュレーター』

関連項目

多連装ロケット砲
パンツァーヴェルファー（ネーベルヴェルファー搭載半装軌車）
ヴルフラーメン40（ネーベルヴェルファー車載用発射器）

ネーベルヴェルファーは、第二次世界大戦におけるドイツ軍の代表的なロケット兵器であり、その開発と実戦投入は、現代のロケット兵器の発展に大きな影響を与えました。

もう一度検索