ノティティア・ディグニタートゥム

ノティティア・ディグニタートゥム（官職要覧）について

『ノティティア・ディグニタートゥム（官職要覧）』は、古代ローマ帝国の行政組織の詳細を伝える公文書であり、現存するものはごく一部です。この文書は、東西ローマ帝国の官僚機構を網羅的に示し、宮廷から地方属州に至る数千人もの役人の官職、役職の一覧表となっています。

通常、西ローマ帝国に関するものは420年代、東ローマ帝国に関するものは400年代に作成されたと考えられていますが、正確な年代を特定する記述は存在しません。

写本と成立過程

15世紀から16世紀にかけて複数の写本が作られ、流布しました。特に1542年の写本には彩色画が施されています。現存する全ての写本は、直接的または間接的に、1542年にシュパイアーの司教座聖堂参事会図書館にあった後期ローマ時代の公文書コデックス（Codex Spirensis）に由来すると考えられています。しかし、このシュパイアーの写本は1642年以前に失われてしまいました。

『ノティティア』は、元々164葉からなる大きな文書の一部であり、9世紀以前の複数の文書と共に保管されていました。彩色写本に描かれた紋章は、失われたCodex Spirensisに含まれていたものを複写・模写したと考えられています。

最も重要な写本の一つは、1436年にイタリア人ピエトロ・ドナトによって作成され、Peronet Lamyが彩色画を描いたものです。

記載内容

『ノティティア』には、東西ローマ帝国の主要な役職（dignities）が、給与（土地の下賜、貨幣、徴税権など）と共に列挙されています。赴任地、職務内容、下級役人を含む所属役人も記載されている場合もあります。内容は以下の様に分類されています。

宮廷役人（プラエフェクトゥス・プラエトリオのような高官を含む）
プラエフェクトゥス・プラエトリオや帝国政府（diocese）によって任命された代官、属州総督
* 軍司令官（マギステル・ミリトゥム、comites rei militaris、ドゥクス）と、その指揮下の軍団の所在地と全称号

最新版は、Robert Irelandによって編集され、British Archaeological Reports, International Series 63巻2号に掲載されています。

歴史研究における重要性

『ノティティア』は、ローマ帝国の軍事体制研究において、以下の4つの重要な意味を持ちます。

1. 4世紀末のローマ帝国の軍隊の様子を知る手がかりとなります。元首政時代から4世紀末までの軍隊の発展を推測するための史料として、他の史料では不足している情報を補完します。
2. 東西で異なる時代に編纂されているため、注意が必要です。東方帝国の記述は395年頃、西方帝国の記述は420年頃のものと考えられています。東ローマ帝国のデータにはテオドシウス1世時代の379年に遡る部分が含まれ、西方帝国のデータは400年に遡る部分を含みます。これらを同時代のものとして扱うことはできません。
3. 欠損や誤記が多い点に注意が必要です。何世紀にもわたる転写の過程で誤記が発生したり、長期間の保存中に欠落したりした部分があります。現存する最も古い写本は15世紀に遡るため、『ノティティア』だけでは組織の全体像を完全に復元することは困難です。
4. 個々の軍団の規模を特定することはできません。当時の軍団規模に関する史料が少ないため、軍隊の総構成員数を正確に知ることはできません。

記載されたシンボル

『ノティティア』には、後の陰陽の紋章として知られる図形が描かれています。歩兵部隊armigeri defensores senioresやMauri Osismiaciは、動的な時計回りの図形が描かれた盾を持っていました。一方、西ローマ帝国のThebaei歩兵軍団は、同心円の図案が特徴的です。これらの図像は、初期の道教の図像よりも数百年も前に描かれていたと考える学者もいます。

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