ハイチの歴史

先コロンブス期

紀元前4000年から1000年の間、アラワク人（タイノ人）が南アメリカのギアナ地方から移住し、島を「アイティ」「ボイオ」「キスケージャ」と呼びました。島は五つの部族集団に分かれていましたが、ヨーロッパ人の侵略により、タイノ人は絶滅しました。当時の人口は、イスパニョーラ島全体で100万人から300万人と推定されています。

植民地時代

1492年、クリストファー・コロンブスがイスパニョーラ島を「発見」した時、島にはアラワク人が住んでいました。しかし、スペインの入植者によって彼らは絶滅させられ、金鉱山での過酷な労働と疫病で多数が命を落としました。その後、スペインは西アフリカから黒人奴隷を連れてきて、主に島の東部を経営しました。1659年以降、フランスは徐々に島の西部を占領し、1697年のライスワイク条約で島の西側3分の1がフランス領となりました。これが現在のハイチの国土であり、フランス領サン＝ドマングと名付けられました。この植民地では、アフリカから連れてこられた多くの黒人奴隷が酷使され、林業、サトウキビ、コーヒー栽培により莫大な富が生み出されました。

黒人反乱と黒人国家の成立

1789年のフランス革命の影響を受け、サン＝ドマングの黒人奴隷とムラート（混血の自由黒人）は、1791年にヴードゥーの司祭デュティ・ブークマンに率いられて蜂起しました。トゥーサン・ルーヴェルチュール、ジャン＝ジャック・デサリーヌ、アンリ・クリストフらの指導の下、黒人反乱軍は白人地主を処刑し、フランスに宣戦布告したイギリスとスペインの軍を撃退しました。1801年、ルーヴェルチュールは自らを終身総督とする自治憲法を公布し、戦乱で疲弊したハイチの再建を図りました。しかし、ナポレオンが派遣した軍によって反乱は鎮圧され、ルーヴェルチュールは逮捕、獄死しました。デサリーヌの指導の下、反乱軍は再起し、イギリスの支援を受け、1803年にフランス軍を駆逐しました。1804年 1月1日、ハイチは独立を宣言し、ハイチ革命が成功しました。デサリーヌは国名を先住民タイノ人の名である「ハイチ」に変更し、皇帝として即位し（ハイチ帝国）、白人の資産や土地所有を禁じました。しかし、1806年に暗殺されましたが、ハイチ建国の父として敬愛されています。

賠償金の圧迫と国内の混乱

ハイチ独立後、北部はクリストフによるハイチ国、南部はペションによるハイチ共和国に分かれました。ペションは農地改革を行い、小農が多数出現しました。1822年には、ハイチがイスパニョーラ島全土を支配しましたが、フランスからの独立承認の代償として、莫大な賠償金を請求され、ハイチ経済は圧迫されました。1843年には、ボワイエの独裁に対する反乱が起こり、東部のスペイン系住民がドミニカ共和国として独立を宣言するなど、国内は混乱が続きました。その後、スールークが皇帝として君臨し、圧政を敷きましたが、1859年に倒されました。ハイチは、巨額の賠償金、内戦、国家分裂に苦しみましたが、この時期に憲法が改正され、安定の基礎が築かれました。

米国による占領

19世紀末から、ハイチは近代化を進めましたが、フランスへの賠償金と借金で財政は逼迫しました。ドイツの干渉も重なり、アメリカは1915年に債務返済を理由にハイチを占領しました。アメリカ軍は1934年まで軍政を敷き、合衆国をモデルにした憲法導入や軍隊訓練などを行いましたが、地方の衰退や軍部の強化といった負の側面も残しました。アメリカによる財政管理は1947年まで続きました。1934年、アメリカ海兵隊は撤退し、その後も政治的混乱が続きましたが、1946年には黒人大統領のエスティメが登場しました。しかし、彼の改革は国内対立を招き、1950年に軍事政権が誕生しました。

デュヴァリエ親子による独裁

1957年、軍事独裁政権下でフランソワ・デュヴァリエが大統領に就任しました。彼は独裁者に転じ、国家財政を私物化し、ブードゥー教を利用して個人崇拝を強め、秘密警察トントン・マクートを使い国民を弾圧しました。1971年、デュヴァリエが死亡すると、息子のジャン＝クロード・デュヴァリエが後を継ぎましたが、1986年に軍事クーデターで追放されるまで、トントン・マクートによる暗黒時代が続きました。

デュヴァリエ以降

1987年に新憲法が制定され、アリスティドが大統領に就任しましたが、1991年の軍事クーデターで亡命しました。国連やアメリカの圧力で、アリスティドは1994年に復帰しましたが、2004年に再び辞任しました。その後も政治的混乱が続き、2010年には大地震が発生し、甚大な被害をもたらしました。また、コレラも流行し、多数の死者が出ました。2011年には、ミシェル・マテリが大統領に選出され、ハイチ史上初めて民選大統領が後任を務めました。

国連平和維持軍の撤退と治安の悪化

2017年に国連平和維持軍が撤退した後、治安が悪化し、ギャングによる誘拐事件が多発しました。2021年にはモイーズ大統領が暗殺され、混乱が続きました。2023年には、首都ポルトープランスの大半がギャングに支配され、多くの住民が避難を余儀なくされました。ハイチ政府は国連に多国籍軍の派遣を要請し、ケニアが主導する多国籍部隊派遣が承認されました。

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