ハイペリオン・レコード

ハイペリオン・レコード（Hyperion Records）は、イギリスを拠点とするクラシック音楽専門の独立系レコードレーベルです。1980年にジョージ・エドワード・ペリー（テッド）氏によって設立されました。その名称は、ギリシャ神話に登場するティーターンの一人、ヒュペリーオーンに由来しています。設立当初から、商業的な成功よりも音楽的な価値を追求する姿勢を貫き、幅広い時代の作品を高品質な録音で提供しています。

設立と歴史

創設者テッド・ペリー氏のもと、ハイペリオンはロンドンでその活動を開始しました。初期のリリースには、当時あまり録音される機会の少なかった20世紀イギリスの作曲家たちの作品が含まれており、ロビン・ミルフォードやアラン・ブッシュ、マイケル・バークレーといった作曲家の楽曲を世に送り出しました。レーベルが広く注目を集め、その地位を確立する大きなきっかけとなったのは、中世音楽の研究家であるクリストファー・ペイジ氏が率いる合唱団ゴシック・ヴォイスによる、12世紀のドイツの神秘家ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの音楽作品の録音でした。この録音は批評家から絶賛され、一般の音楽ファンにも広く受け入れられ、ハイペリオンの事業的な成功に大きく貢献しました。現在、レーベルの運営は創設者の息子であるサイモン・ペリー氏が引き継いでいます。

録音の特徴と主要な企画

ハイペリオンは、クラシック音楽の膨大なレパートリーの中でも、特に「マイナー」とされる作品や、演奏機会の少ない楽曲を積極的に取り上げることで、世界中の音楽ファンから絶大な支持を得ています。特に、それまでほとんど録音されていなかったロマン派のピアノ協奏曲シリーズや、スコットランドのロマン派作曲家の作品、またルネサンス期からバロック期にかけてのイギリス音楽などは、ハイペリオンの重要な柱となっています。

レーベルのカタログには、特筆すべき全集企画や録音が数多く存在します。オーストラリア出身のピアニスト、レスリー・ハワード氏によるフランツ・リストのピアノ独奏曲全集は、その膨大な規模と学術的な価値から特に有名です。また、ピアニストのグレアム・ジョンソン氏が監修し、多様な声楽家が参加したフランツ・シューベルトの歌曲全集も、この分野における金字塔とされています。バロック音楽では、ロバート・キング氏指揮のキングズ・コンソートによるアントニオ・ヴィヴァルディの宗教音楽録音シリーズや、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルのオラトリオ、ヘンリー・パーセルの合唱曲録音などが高い評価を得ています。さらに、カール・レーヴェ、ロベルト・シューマン、フェリックス・メンデルスゾーン、リヒャルト・シュトラウスといった作曲家の歌曲全集も名盤として知られています。カナダの世界的ピアニスト、アンジェラ・ヒューイット氏は、ハイペリオンと長期的な関係を築き、ヨハン・セバスチャン・バッハの鍵盤作品全集を完成させており、特に「平均律クラヴィーア曲集」は二度録音しています。オルガン奏者のクリストファー・ヘリック氏も、自身のオルガン作品全曲をハイペリオンで録音しています。近年では、ピアニストのスティーヴン・ハフ氏によるセルゲイ・ラフマニノフのピアノ協奏曲全曲と、「パガニーニの主題による狂詩曲」の作曲者オリジナル版による録音などが注目を集めました。ロマン派のヴァイオリン協奏曲やチェロ協奏曲に関する継続的な録音シリーズも特筆に値します。このように、ハイペリオンのレパートリーは非常に幅広く、12世紀から21世紀に至るまでの多様な時代の音楽作品を網羅しています。

受賞と評価

ハイペリオンがリリースした録音は、その質の高さから音楽批評家や専門家から常に高い評価を受けており、クラシック音楽界で最も権威ある賞の一つである「グラモフォン賞」を複数回（1996年、1998年、2002年、2010年など）受賞するなど、数多くの国際的な賞に輝いています。

2004年の法廷闘争

2004年、ハイペリオン・レコードは音楽作品の校訂者であるライオネル・ソーキンス氏との間で法的な争いに巻き込まれました。これは、ハイペリオンが録音に使用したミシェル＝リシャール・ドラランドの作品の校訂版について、ソーキンス氏が独自の創造性が含まれるとして音楽著作権によるロイヤルティーを主張したことによります。ハイペリオン側は、校訂版はオリジナルな創作物ではなく、著作権は発生しないと反論し、ソーキンス氏には既にレンタル料（hire fee）として支払いが行われていると主張しました。しかし、2004年の第一審、そして2005年の控訴審においても、裁判所はソーキンス氏の主張をほぼ認め、ハイペリオンに支払い義務があるとの判決を下しました。この訴訟そのものによる損害賠償額は比較的小さかったものの、裁判に関連して発生した多額の費用（数百万ポンドに及んだとされます）が、レーベルの経営を一時的に深刻な危機に陥らせました。しかし、この窮状を知った世界中の音楽家、熱心な音楽ファン、作曲家などから多大な金銭的支援が寄せられた結果、ハイペリオンはこの経営危機を乗り越えることができました。例えば、ハイペリオン所属の著名なピアニストであるマルカンドレ・アムラン氏は、シャルル＝ヴァランタン・アルカンのピアノ独奏による協奏曲を再録音した理由の一つとして、この時のレーベルの困難な状況を挙げています。

まとめ

ハイペリオン・レコードは、商業主義に流されることなく、音楽史に埋もれた珠玉の作品を発掘し、世界に紹介し続けるという重要な役割を果たしています。その高品質な録音と意欲的な企画は、世界のクラシック音楽界においてかけがえのない存在感を示しています。

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