ハクバサンショウウオ

ハクバサンショウウオ（白馬山椒魚、学名：Hynobius hidamontanus）は、日本の山間部にひっそりと暮らす両生類、サンショウウオの仲間です。有尾目サンショウウオ科サンショウウオ属に分類されるこの生き物は、長野県白馬村で1975年に発見されたことにちなんでその和名が付けられました。学名の種小名「hidamontanus」は「飛騨山脈の」という意味を持ち、このサンショウウオの主な生息地が飛騨山脈周辺地域であることを示しています。

分布

ハクバサンショウウオは、日本の固有種であり、主に本州の山岳地帯に限定して分布しています。具体的には、岐阜県、富山県、長野県白馬村、そして新潟県糸魚川市といった地域でその姿を確認することができます。初めて発見された場所である白馬村は、この種の基準となる標本（模式標本）が採取された場所（模式産地）として記録されています。

形態

成体の大きさは比較的小型で、オスは約8.4センチメートル、メスは約8.7センチメートル程度の全長になります。体の側面には、肋条（ろくじょう）と呼ばれる横方向のしわが左右それぞれに12本（まれに13本）確認できます。体の色は、背中側が暗褐色をしており、腹側はそれよりも淡い褐色です。特筆すべき形態上の特徴として、全身に光沢のある白い小さな斑点がびっしりと入っている点が挙げられます。これは他のサンショウウオとの識別の手がかりの一つとなります。

口の中、上あごの中央部には、鋤骨歯列（じょこつしれつ）と呼ばれる歯の並びがあります。ハクバサンショウウオの場合、この歯列はアルファベットの「V」の字のような形をしていますが、その切れ込みは浅いのが特徴です。四肢は短く、前足の指と後ろ足の指を体の脇に沿って前後に伸ばしても、お互いに触れることはありません。足の指は前足に4本、後ろ足にも4本あります。

卵は卵嚢と呼ばれる袋に包まれて産み付けられます。ハクバサンショウウオの卵嚢の表面は、他のサンショウウオの卵嚢に比べてしわが不明瞭であるという特徴があります。

分類に関する経緯

かつて、岐阜県や富山県に生息する一部のサンショウウオの個体群は、ヤマサンショウウオ（Hynobius tenuis）という別の種として記載され、ハクバサンショウウオとは非常に近縁な種と考えられていました。しかし、近年行われた酵素の電気泳動法を用いた分子系統学的な詳細な解析の結果、ヤマサンショウウオはハクバサンショウウオのシノニム（同一の種を指す異なる学名）であるとする説が有力視されています。このため、現在では岐阜県や富山県の個体群もハクバサンショウウオとして扱われることが多くなっています。

生態

ハクバサンショウウオは肉食性で、主に動物質のものを捕食します。餌となるのは、昆虫やクモなどの節足動物、陸にすむ巻貝、そしてミミズなどの環形動物などです。幼生の時期には、水中で小さな節足動物などを食べますが、しばしば自分より小さな他の幼生を食べてしまう共食いも見られます。

繁殖は卵生です。毎年4月から5月にかけて、湿原や森林の中にある細い流れ（細流）などで産卵を行います。一度に産む卵の数は30個から76個程度で、これらを一対の卵嚢にまとめて産み付けます。産み付けられた卵は、通常6月頃に孵化して幼生となります。幼生は9月から11月にかけて変態し、陸上で生活する幼体になりますが、中には幼生のまま冬を越し、翌年の春になってから変態するものもいます。

人間との関係と保全

ハクバサンショウウオは、現在その生息数が大きく減少しており、絶滅の危機に瀕しています。主な原因として、森林伐採や宅地開発などによる生息地の破壊、河川や湿地の水質汚染が挙げられます。また、道路脇の側溝に落ちてしまってそのまま死んでしまう事故や、希少なサンショウウオを狙った違法な採集（密猟）も、生息数を減らす要因として懸念されています。

このような状況を受けて、ハクバサンショウウオの保護対策が進められています。岐阜県では、かつてのヤマサンショウウオとしての指定を含め、指定希少野生生物として保護の対象となっています。また、ハクバサンショウウオが最初に発見された長野県白馬村では、村の天然記念物に指定されており、許可なく採集することは禁じられています。環境省のレッドリストでは、絶滅の危険性が高いカテゴリーである「絶滅危惧IB類 (EN)」に分類されており、種の保全に向けた一層の取り組みが求められています。

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