ハサン・イブン・アリー

ハサン・イブン・アリー：預言者の孫、平和を求めたイマーム

ハサン・イブン・アリー（624年/625年 - 669年）は、イスラム教の預言者ムハンマドの孫であり、シーア派においては第2代イマームとして敬愛されています。スンナ派においても、第5代正統カリフとして認められることがあります。父は第4代カリフ、アリー・イブン・アビー＝ターリブ、母はムハンマドの娘ファーティマ・ザフラーであり、アフル・アル＝バイト（預言者の家系）の一員として、イスラム教徒全体から重要な人物と見なされています。

生い立ちと出自

ハサンは、ヒジュラ（ムハンマドのメッカからメディナへの移住）から約2年後の生まれです。祖父ムハンマドから深い愛情を受け、弟のフサインと共に、楽園における若者の指導者となると伝えられています。シーア派の伝承では、ハサンの名前は神の啓示によってムハンマドが名付けたとされ、「凛々しい」という意味を持っています。

カリフ職をめぐる葛藤

父アリーの死後、クーファのアリー支持者たちはハサンを後継のカリフとして迎えましたが、アリーとカリフ職を争っていたムアーウィヤがこれに異を唱え、両者の対立が深まります。ムアーウィヤはハサンにカリフ職の放棄を求めましたが交渉は決裂し、両軍はサバト近郊で対峙することになります。しかし、ハサンは共同体の分裂を深く憂慮し、支持者たちに自身の命令に従うよう訴えました。この行動は、一部の支持者の反発を招き、暗殺未遂に遭うものの、忠誠を誓う兵士たちによって守られました。

平和への希求

両軍の間で小競り合いが続く中、ムアーウィヤは戦いが多くの人命を奪うことを懸念し、停戦交渉を提案します。ハサン自身も負傷し、軍内部の不満が高まっていたことから、内乱の終結を望み、停戦交渉に応じます。スンナ派の学説によれば、ハサンはムアーウィヤに対し、クルアーンとスンナ（預言者の慣行）に従うこと、ムアーウィヤの死後にカリフ職選任のシューラー（協議会）を開くこと、そしてハサンの支持者への報復を禁じることを条件としました。シーア派の学説では、さらにムアーウィヤの死後、ハサンまたは弟のフサインにカリフ職を返還することを条件としたとされています。

カリフとしての評価

ハサンがカリフを称したのは短期間であり、その正当性はイスラム帝国の限られた地域でしか認められませんでした。そのため、多くの年代記はハサンをカリフに含めていません。しかし、一部のスンナ派の歴史家は、ハサンをムアーウィヤの前代カリフとして認めています。シーア派では、ハサンは無謬のイマームの一人として崇敬されています。

結婚と倫理観

ハサンの妻の数については諸説ありますが、6人が有力とされています。彼は妻との関係においても忍耐と寛容さを示しました。また、ハサンは容姿も道徳も預言者ムハンマドに似ていたとされ、その寛容さ、勇気、禁欲主義、信心深さは多くの人々に感銘を与えました。

死と毒殺説

ハサンは669年（または670年）にメディナで亡くなりました。多くの歴史家は、その死因を毒殺と考えています。ムアーウィヤが息子のヤズィードにカリフ職を継がせるために、ハサンの妻ジャーダを唆し、毒を盛らせたとされています。しかし、一部のスンナ派の情報源は、ハサンの死は病気によるものであり、ムアーウィヤは関与していないと主張しています。

葬儀と墓

ハサンは、生前に祖父ムハンマドの隣に埋葬されることを望んでいましたが、アーイシャの反対により、ジャンナトゥル・バキー墓地に埋葬されました。ハサンの墓はシーア派の巡礼地となり、大きなドームが建てられましたが、ワッハーブ派によって二度破壊されました。

スンナ派とシーア派における評価

スンナ派では、ハサンはアフル・アル＝バイトの一員として、また教友の一人として尊敬されています。シーア派では、第2代イマームとして非常に肯定的に扱われ、殉教者として崇められています。

ハサン・イブン・アリーは、その短い生涯の中で、カリフ職を巡る政治的な葛藤、共同体の平和への希求、そして倫理的な模範を示しました。彼の生涯は、現代のイスラム教徒にとっても重要な教訓を与えてくれます。

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