ムアーウィヤ

ムアーウィヤ1世：ウマイヤ朝の創始者

ムアーウィヤ1世（603年頃 - 680年4月18日）は、イスラム史において重要な人物の一人です。彼は、第5代カリフであり、ウマイヤ朝の初代カリフとして、イスラム世界の政治と社会に大きな影響を与えました。本稿では、ムアーウィヤ1世の生涯、業績、そして彼が残した遺産について詳しく解説します。

生涯と出自

ムアーウィヤは、クライシュ族の名門であるウマイヤ家の出身です。父は、マッカ（メッカ）の有力者であり、当初は預言者ムハンマドに激しく敵対したアブー・スフヤーンでした。しかし、ムハンマドがメッカを征服した後、アブー・スフヤーンはイスラム教に改宗し、ムアーウィヤもこれに従いました。ムアーウィヤは、兄のヤズィードとともに、ムハンマドの秘書として活躍しました。

シリア総督としての台頭

ムハンマドの死後、ムアーウィヤの兄ヤズィードが初代カリフ・アブー＝バクルによってシリア州の総督に任命されると、ムアーウィヤは副司令官として同地の征服に貢献しました。彼は、東ローマ帝国との戦争に従事し、着実に勢力を拡大していきました。639年にシリアで悪疫が流行し、総督アブー・ウバイダをはじめとする多くの将卒が病死すると、第2代カリフ・ウマルはヤズィードに次期総督を任せました。しかし、640年にヤズィードも病死したため、ウマルは改めてムアーウィヤをシリア総督に任命しました。

ムアーウィヤは、シリアの部族を掌握し、東ローマ帝国との戦いを有利に進め、キプロス島とロドス島を征服するなど、シリアに確固たる勢力を築き上げました。

カリフへの道

656年、第3代カリフ・ウスマーンが暗殺されると、第4代カリフとしてアリーが就任しました。ムアーウィヤは、ウマイヤ家出身だったウスマーンの復讐を叫び、アリーと対立しました。スィッフィーンの戦いなどでアリーと戦い、徐々に勢力を拡大し、660年にはエルサレムでカリフ就任を宣言しました。翌661年、アリーがハワーリジュ派によって暗殺されると、ムアーウィヤは単独のカリフとなり、ウマイヤ朝を開きました。

ウマイヤ朝の創始と国家体制の整備

ムアーウィヤは、シリアのダマスカスを首都に定め、カリフ位の実質的な世襲化を始めました。彼は、ハワーリジュ派などの反乱を抑制するため、軍や支配地域の俸給と租税を監督する官庁や勅令を管理する官庁を整備し、ディーワーン制度の確立を進めました。また、各都市や宿場に駅馬を配置して駅逓制度を敷設し、軍事制度の整備など、イスラム共同体を国家体制として機能させるための様々な改革を行いました。

カルバラーの悲劇とシーア派との対立

680年、ムアーウィヤの死後、息子ヤズィードの時代に、アリーの子フサインがカルバラーで虐殺されるという「カルバラーの悲劇」が起こりました。この事件は、後のシーア派とスンナ派の対立の根源となり、イスラム世界に深い傷跡を残しました。

遺産

ムアーウィヤ1世は、ウマイヤ朝の創始者として、イスラム世界の政治と社会に大きな影響を与えました。彼は、国家体制を整備し、イスラム共同体を国家として機能させるための基礎を築きました。しかし、彼の政策は、後のイスラム世界に深い対立の種を残すことにもなりました。ムアーウィヤ1世の業績は、今日においても様々な議論を呼んでいます。

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