ハッチング

ハッチングについて

ハッチング（hatching）とは、絵画、版画、図案、作図（CAD）などにおいて、一定の面を平行な線で埋める技法のことです。この技法は、視覚効果の演出、作業の効率化といった様々な目的で使用されます。日本語では「雨降り描き」などと訳されることもありますが、いずれも一般的には定着していません。

ハッチングの歴史と絵画における役割

ハッチングは、特にテンペラ画において古くから用いられてきた技法です。テンペラ絵具は、筆による加圧で絵具を混合し、連続した階調を作り出すことが難しいという性質を持っています。そのため、ハッチングを用いて隣接する色を線で区切りながら塗り重ねることで、色の階調を表現してきました。この技法は、テンペラ画における表現の幅を広げ、作品の完成度を高める上で不可欠なものでした。

コンピュータ分野におけるハッチング

コンピュータ分野、特にCAD（2次元CAD）においては、ハッチングは指定した面を斜線や特定の模様で塗りつぶす命令として用いられます。これにより、図面やデザインにおいて特定の領域を視覚的に区別したり、質感や素材を表現したりすることが可能になります。CADにおけるハッチングは、効率的な作図作業に不可欠な機能の一つです。

ハッチングと関連する技法

ハッチングは、他の描画技法とも密接に関連しています。

素描: ハッチングは、素描において、陰影や質感、立体感を表現するために不可欠な技法です。線の密度や方向を調整することで、さまざまな表現が可能になります。
点描: 点描は、点で色を表現する技法であり、ハッチングと同様に、色や陰影を表現するために用いられます。点描とハッチングを組み合わせることで、より複雑な表現も可能です。
網掛け: 網掛けは、複数の線を交差させて面を塗りつぶす技法であり、ハッチングと同様に、陰影や質感、立体感を表現するために用いられます。
ボールペン画: ボールペン画は、ボールペンを用いて描く絵画であり、ハッチングは、ボールペン画において、陰影や質感、立体感を表現するために非常に有効な技法です。
漫画: 漫画においても、ハッチングは、影や質感、効果線などを表現するために広く用いられています。

まとめ

ハッチングは、絵画からCADまで、幅広い分野で使用される基本的な描画技法です。視覚効果の向上や効率的な作業の実現に貢献し、表現の幅を広げる重要な役割を果たしています。ハッチングを理解することで、様々な表現の可能性を探求し、より豊かな表現力を身につけることができるでしょう。

参考文献

『黄金背景テンペラ画の技法―油絵の母胎、現代の手によみがえるルネッサンスの板絵技法 (新技法シリーズ)』 田口 安男 著 美術出版社 1978.12 ISBN 978-4568320916
『絵画技術体系』マックス・デルナー 著 ハンス・ゲルト・ミュラー 著(改訂) 佐藤一郎訳 美術出版社 1980/1 ISBN 978-4568300345
『絵画技術入門―テンペラ絵具と油絵具による混合技法 (新技法シリーズ)』 佐藤 一郎 著 美術出版社 1988/11 ISBN 4568321468 ISBN 978-4568321463
『絵画技術全書』 クルト・ヴェールテ著 ゲルマール・ヴェールテ(Germar Wehlte) 著 佐藤一郎 監修翻訳 戸川英夫 訳 真鍋 千絵 訳 美術出版社 1993/03 ISBN 4568300460
『カラー版 絵画表現のしくみ―技法と画材の小百科』森田恒之監修 森田恒之ほか執筆 美術出版社 2000.3 ISBN 4568300533
『トンプソン教授のテンペラ画の実技』 ダニエル・バーニー・トンプソン 著 佐藤 一郎 訳 東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻油画技法材料研究室 東京芸術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存修復油画研究室 中川 経子 三好企画 2005/08 ISBN 4938740567 ISBN 978-4938740566

外部リンク

『ハッチング』 - コトバンク

関連項目

素描
点描
網掛け
ボールペン画
* 漫画

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