ハットフル・オブ・ホロウ

ザ・スミス『ハットフル・オブ・ホロウ』：初期の魅力を凝縮したコンピレーション

1984年11月にリリースされたザ・スミスのコンピレーションアルバム『ハットフル・オブ・ホロウ』は、彼らの初期の活動を捉えた重要な作品です。このアルバムは、スタジオ録音された楽曲だけでなく、BBCラジオの音楽番組のために録音された貴重なライブ音源も収録しています。特に、ジョン・ピール・ショウやデヴィッド・ジェンセン・ショウでのセッションは、バンドの生々しい魅力を伝える貴重な記録となっています。

BBCラジオセッションの記録

ザ・スミスは、1983年に4回にわたりBBCラジオ・ワンの番組でライブ録音を行いました。これらのセッションからは10曲が選ばれ、アルバムに収録されています。各セッションの日付と放送日は以下の通りです。

5月18日録音、5月31日放送（ジョン・ピール・ショウ）
6月26日録音、7月4日放送（デヴィッド・ジェンセン・ショウ）
8月25日録音、9月5日放送（デヴィッド・ジェンセン・ショウ）
9月14日録音、9月21日放送（ジョン・ピール・ショウ）

5月18日のセッションでは、アルバム未収録の「ミゼラブル・ライ」も録音されました。この曲は、後に12インチEP『The Peel Session』に収録されています。

シングル曲とオリジナルミックス

『ハットフル・オブ・ホロウ』には、デビューシングル「ハンド・イン・グローヴ」のオリジナルミックスが収録されています。この曲は、デビューアルバム『ザ・スミス』ではジョン・ポーターによってリミックスされていましたが、本作ではより初期のバージョンを聴くことができます。また、アルバムには「ウィリアム」「ヘヴン・ノウズ」といったシングルA面曲や、そのB面曲も収録されており、シングルカットされた楽曲の充実ぶりもこのアルバムの魅力の一つです。

ジャケットデザインとファブリック・コレット

アルバムのジャケットに写っているのは、ファブリック・コレットという人物です。彼の肩には、ジャン・コクトーの絵にインスパイアされたタトゥーが入っています。しかし、1987年以降の再発盤ではジャケットデザインが変更され、タトゥーは見えなくなっています。このジャケット変更からも、当時のデザインやアートワークへのこだわりが感じられます。

アルバムの反響と評価

『ハットフル・オブ・ホロウ』は、全英アルバムチャートで46週トップ100入りし、最高7位を記録しました。ニュージーランドでもチャートインし、最高21位に達しています。音楽評論家からの評価も高く、Stephen Thomas Erlewineはオールミュージックで満点の5点をつけ、「ザ・スミスはシングルをアルバムのプロモーション用ではなく、独立した個々の存在として扱っており、彼らの最も優れた曲の多くはスタジオ・アルバムでは発表されていない」と評しました。また、NME誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」では100位にランクインするなど、その評価は非常に高いものとなっています。

収録曲の詳細

全曲、作詞はモリッシー、作曲はジョニー・マーが担当しています。以下、収録曲と簡単な解説です。

1. ウィリアム "William, It Was Really Nothing"：1984年8月リリースのシングルA面曲。
2. ホワット・ディファレンス・ダズ・イット・メイク? "What Difference Does It Make?"：1983年5月18日録音のジョン・ピール・ショウ音源。
3. ジーズ・シングス・テイク・タイム "These Things Take Time"：1983年6月26日録音のデヴィッド・ジェンセン・ショウ音源。
4. ジス・チャーミング・マン "This Charming Man"：1983年9月14日録音のジョン・ピール・ショウ音源。
5. ハウ・スーン・イズ・ナウ? "How Soon Is Now?"：シングル「ウィリアム」のB面曲であり、後にシングルA面としてもリリースされた。
6. ハンサム・デヴィル "Handsome Devil"：1983年5月18日録音のジョン・ピール・ショウ音源。
7. ハンド・イン・グローヴ "Hand in Glove"：デビューシングルのオリジナルミックス。
8. スティル・イル "Still Ill"：1983年9月14日録音のジョン・ピール・ショウ音源。
9. ヘヴン・ノウズ "Heaven Knows I'm Miserable Now"：1984年5月25日リリースのシングルA面曲。
10. ジス・ナイト・ハズ・オープンド・マイ・アイズ "This Night Has Opened My Eyes"：1983年9月14日録音のジョン・ピール・ショウ音源。
11. ユーヴ・ゴット・エヴリシング・ナウ "You've Got Everything Now"：1983年6月26日録音のデヴィッド・ジェンセン・ショウ音源。
12. アクセプト・ユアセルフ "Accept Yourself"：1983年8月25日録音のデヴィッド・ジェンセン・ショウ音源。
13. ガール・アフレイド "Girl Afraid"：シングル「ヘヴン・ノウズ」のB面曲。
14. バック・トゥ・ジ・オールド・ハウス "Back to the Old House"：1983年9月14日録音のジョン・ピール・ショウ音源。
15. リール・アラウンド・ザ・ファウンティン "Reel Around the Fountain"：1983年5月18日録音のジョン・ピール・ショウ音源。
16. プリーズ・プリーズ "Please, Please, Please, Let Me Get What I Want"：シングル「ウィリアム」のB面曲で、数多くのアーティストにカバーされている。

参加ミュージシャン

モリッシー：ボーカル
ジョニー・マー：ギター、ハーモニカ、マンドリン
アンディ・ルーク：ベース
マイク・ジョイス：ドラムス

『ハットフル・オブ・ホロウ』は、ザ・スミスの初期の魅力を凝縮した作品であり、彼らの音楽性を深く理解するための重要な一枚です。スタジオアルバムとは異なるライブ感あふれる演奏や、シングル曲のバリエーションなど、聴きどころ満載のアルバムです。

もう一度検索