ハッピー・ジャック

「ハッピー・ジャック」は、イギリスのロックバンド、ザ・フーが1966年に発表した楽曲です。ピート・タウンゼントによって作詞・作曲され、シングルとしてリリースされました。

純粋な新曲としては、同年8月に発表された「アイム・ア・ボーイ」以来となります。2ndアルバム『ア・クイック・ワン』と同時に発売されました。イギリスではオリジナル・アルバムには収録されていませんが、アメリカではアルバム『ハッピー・ジャック』（『ア・クイック・ワン』の米国盤）に収録されています。アメリカ盤は、メンバー4人の似顔絵があしらわれたピクチャー・スリーブに入れられて発売されました。

この楽曲は、ザ・フーにとってアメリカで初めてチャートのトップ30入りを果たした作品であり、イギリスでも3位を獲得するヒットとなりました。童謡のような親しみやすい曲調が特徴で、曲全体を通してロジャー・ダルトリー、ジョン・エントウィッスル、ピート・タウンゼントの3人が歌唱を担当しています。ドラムスのキース・ムーンは、歌唱に難があったため参加していませんが、何とかして自分も歌わせてもらおうとボーカルブースに近づこうとしていたそうです。曲の終わりにタウンゼントが「I saw ya!（見つけたぞ！）」と叫んでいるのは、そのためです。歌詞は、タウンゼントが幼少の頃に父親と訪れたマン島で見かけた奇妙な人々について書かれたものと言われています。なお、この曲のステレオ・バージョンは存在しません。

シングルのB面には、イギリス版にはジョン・エントウィッスルの「寂しい別れ」が、アメリカ版には「ウイスキー・マン」が収録されました。「寂しい別れ」は冤罪で服役している男の独白を、「ウイスキー・マン」は重度のアルコール中毒者の幻覚を歌ったもので、どちらもエントウィッスルらしいブラックユーモアに富んだ内容となっています。

1988年に発表されたベストアルバム『フーズ・ベター・フーズ・ベスト』には、この曲の別ミックス・バージョンが収録されています。このバージョンは、後半のドラムスがオリジナルとは異なっています。また、1995年に発表された『ア・クイック・ワン』のリマスター／リミックスCDには、1966年10月30日に録音された初期バージョンが収録されています。この初期バージョンは、アコースティックギターを主体にした演奏で、ドラムスの代わりにコンガを使用し、さらにタウンゼントがチェロを演奏したアコースティック・バージョンとなっています。

「ハッピー・ジャック」にはミュージック・ビデオも制作されています。モノクロ映像で、メンバー4人が泥棒に扮し、コミカルな演技を披露しています。楽器を演奏しているシーンが一切挿入されていないのは、彼らのプロモーションビデオでは初めてのことでした。撮影は1966年12月19日に行われ、監督はビートルズの『レット・イット・ビー』や、ザ・フーも参加した『ロックンロール・サーカス』で有名なマイケル・リンゼイ＝ホッグが務めました。この映像は、ザ・フーのドキュメンタリー映画『キッズ・アー・オールライト』（1979年）にも収録されています。

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