ハプログループC1a2 (Y染色体)

ハプログループC-V20（C1a2）

ハプログループC-V20は、分子人類学において男性の父系遺伝系統を追跡するY染色体ハプログループの一つです。広義のハプログループC1の下位に位置するC1a系統に属し、特に遺伝子変異V20やV184などを指標として定義されます。この系統は、その系統名称からハプログループC1a2とも呼ばれます。

概略

現代のハプログループC-V20は、ヨーロッパをはじめとする一部地域でごく低い頻度で見られます。この系統は、日本列島で比較的特徴的に見られるハプログループC-M8（C1a1）とは、Y染色体系統樹において近い枝に位置する兄弟系統にあたるとされています。

歴史と分布

ハプログループC-V20系統は、特にヨーロッパにおける古代人の遺伝的歴史を考察する上で重要な手がかりを提供しています。

旧石器時代のヨーロッパ

現在知られている最も古いC-V20の検出例は、約3万年前に遡ります。旧石器時代のチェコで発見された古人骨から、この系統が確認されています。また、約3万4000年前のロシア西部ヴラジーミル州にあるスンギール遺跡から出土した複数の古人骨のY染色体解析からは、C1a1-M8系統を持つ現代日本人よりも、C1a2-V20系統を持つ現代ネパール人との類似性がやや高いという解析結果が得られています。これは、これらのスンギール遺跡の人骨がC1a2系統上に位置する可能性を示唆しています。

さらに古い約3万5000年前のベルギー出土の古人骨からは、C1aのさらに上位の系統にあたるC1a-CTS11043が検出されていますが、これがC1a2を特徴づけるV20などの変異を持っていたかどうかは現時点では不明です。

これらの古代の検出例から、ハプログループC-V20は、約4万年前にヨーロッパに到達し、洞窟壁画などで知られるオーリニャック文化を担ったと考えられている最初期の現生人類集団、いわゆるクロマニョン人の一部に属していた可能性が非常に高いと考えられています。旧石器時代、特にその後期において、この系統はヨーロッパの人口構成において比較的大きな割合を占める主要な集団の一つであったと推定されています。

中石器時代および新石器時代

旧石器時代以降も、ハプログループC1a2系統の痕跡は確認されています。約7000年前の中石器時代のスペイン北西部にあるラ・ブラーニャ遺跡で発見された古人骨や、同じく約7000年前の新石器時代、線帯文土器文化に関連するハンガリー出土の古人骨からもC1a2系統が検出されています。これは、氷河期が終わり、狩猟採集から農耕へと社会が変化していく時代においても、この系統の人々がヨーロッパに存在し続けたことを示しています。

現代の分布

長い歴史の中で、ヨーロッパの遺伝的景観は大きく変化しました。現在、ハプログループC-V20は、過去の主要な存在感とは対照的に、ヨーロッパの現代人においては非常に低頻度でしか見られません。ヨーロッパ以外では、アルジェリアの特定集団であるカビル人、アルメニア人、ネパール人など、限られた地域や集団でわずかに検出されるのみとなっています。

まとめ

ハプログループC-V20（C1a2）系統は、約3万年前の旧石器時代からヨーロッパに存在した古くからの父系系統です。オーリニャック文化を担った最初期の現生人類集団との関連が強く示唆されており、旧石器時代のヨーロッパにおいては重要な構成員であったと考えられています。時代を経てその頻度は減少しましたが、中石器・新石器時代の痕跡や、現代の特定の集団におけるわずかな存在から、この系統がたどってきた人類史の軌跡を垣間見ることができます。日本人のC-M8系統との兄弟関係も、広範なユーラシア大陸における人類の移動と拡散の歴史の一端を示唆しています。

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