ハプログループX (mtDNA)

ハプログループX (mtDNA) について

ハプログループXは、分子人類学においてミトコンドリアDNA（mtDNA）のハプログループの一つとして分類されています。このグループは、共通の祖先「N」から派生し、特定の変異、具体的には73, 7028, 11719, 12705, 14766, 16189, 16223, 16278の変異によって定義されます。

分布の謎

ハプログループXの分布は、ヨーロッパ、中東、そしてアメリカ先住民の間で確認されています。特に、アルゴンキン語族を話す人々の間で高い頻度で観察されていますが、その分布は多くの謎に包まれています。

アメリカ大陸においては、ハプログループXは主に北米大陸に分布しており、特に東部地域で高頻度です。この分布パターンから、ヨーロッパからの直接的な移住があったのではないかという説が提唱されています。この説を裏付けるものとして、ソレトリュー仮説が存在しますが、この仮説はまだ立証されていません。

一方で、アルタイ地域でもハプログループXがわずかに確認されており、シベリアを経由してアメリカ大陸に到達したという説も存在します。しかし、アルタイ地域で見られるタイプは、ヨーロッパに分布するタイプの下位分岐であり、約5000年前にヨーロッパや中東方面から移動してきたと考えられています。これは、人類がシベリアからアメリカ大陸へ移住したとされる10000年以上前よりもはるかに後の出来事です。

アメリカ大陸に分布しているのは、主にX2aという下位系統であり、この系統はアメリカ大陸に固有のものです。X2aの分岐年代はまだ不明ですが、アルゴンキン語族の拡散と関連して、過去のある時期（1492年のコロンブスのアメリカ大陸到達以前）にヨーロッパからアメリカ大陸への直接移住があった可能性も否定できません。

しかし、ワシントン州で発掘された約8690-8400年前の人骨「ケネウィックマン」がハプログループX2aに属していたことから、この時期までに北アメリカ西岸にX2aが到達していたことが示唆されています。これは、他のハプログループと共にベーリンジアを越えてアメリカ大陸にやってきた可能性も示唆しています。

下位系統

ハプログループXは、以下のような下位系統に分類されています。

X
X4: アルメニア
X1: 北アフリカ、中東
X1a: 北アフリカ、中東
X1c: スペイン、チュニジア
X1b (または X3): モロッコ、ポルトガル、ドルーズ
X2: ユーラシア西部、北アメリカ、中央アジア、シベリア
X2f: ジョージア、アルメニア、ドルーズ、リビア、トルコ、タジキスタン
X2a'j: 北アメリカ、イラン、シベリア（ポドカメンナヤ・ツングースカ川流域）
X2a: 北米先住民（オジブワ、スー族、ナバホなど）
X2a1: 五大湖周辺
X2a1a: スー族など
X2a1b: オジブワ
X2a1c: オジブワ
X2a2: ナバホ
X2j: アイルランド、エジプト
X2b: オークニー諸島、東欧、南欧、北アフリカ、中東、エベンキ
X2c: バルト海沿岸、コーカサス、中央アジア、アルバニア
X2d: ヨーロッパ、中東、コーカサス
X2g: オジブワ
X2e
X2e1: ギリシャ人、クルド人
X2e2: シベリア南部（アルタイ人、ブリヤート人、テレンギト人）、タジク人、ヨーロッパ、コーカサス、中東
X2h: ドルーズ


このように、ハプログループXは複雑な分布と多様な下位系統を持っており、その起源と拡散の解明は、人類の歴史を理解する上で重要な課題となっています。

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