ハマザーニー

バディー・アッザマーン・ハマザーニー：マカーマ文学の父

バディー・アッザマーン・ハマザーニー（969年～1007年）は、ブワイフ朝時代のハマダーンで生まれたイスラムの詩人にして著作家です。彼の名は、アラビア文学史に燦然と輝く、マカーマという革新的な文学形式の創始者として広く知られています。

ハマザーニーは、幼少期から類まれな才能を示しました。クーファ学派の文法学者イブン・ファーリスらに師事し、詩作や物語の才能を磨きます。並外れた記憶力は、ペルシア語の詩をアラビア語に瞬時に翻訳したり、書簡を逆に書いてみせたりする芸当を可能にしました。散文と韻文の自在な変換、そして即興の語りも彼の得意技でした。古代アラビアの説教に独自の修辞を施し、物語性豊かな説教を創作するなど、言葉の魔術師としての側面を持っていました。

彼の才能は、単なる技巧にとどまりませんでした。ニーシャープールでは、著名な文人フワーリズミーとの公開論争で勝利を収め、その実力を世に知らしめました。

ハマザーニーの代表作は、『マカーマート』（集会）です。この作品は、アレクサンドリア出身の悪党を主人公に、語り手がその悪事を面白おかしく語るという形式を取っています。鮮やかな描写、機知に富んだユーモア、そして巧みな言葉の使い方は、人々の心を掴み、彼は「バディー・ウッ・ザマーン」（時代の驚異）と称えられるようになりました。

『マカーマート』は、アラビア文学に大きな影響を与えました。しかし、ハマザーニーが生涯を通じて各地を放浪したため、彼の作品は多くが失われてしまいました。現在、残っているのは50数話のみです。

彼は大きな公職に就くことなく、ガズナなど各地を旅して回りました。そして、ヘラートで生涯を終えました。その最期は、卒倒して仮死状態のまま埋葬されたという逸話も残されています。

ハマザーニーの短い生涯は、アラビア文学に革命をもたらした、輝かしい業績と、多くの謎に包まれています。彼の作品は、現在も世界中の研究者によって研究され、その魅力は色褪せることがありません。失われた作品群も、いつか発見されることを期待しつつ、現代に残された作品から、その比類なき才能の一端を感じ取ることができるのです。

参考文献

アル・ハリーリー『マカーマート 中世アラブの語り物（1-3）』（堀内勝訳、平凡社〈東洋文庫〉、2008年-2009年）
前嶋信次『生活の世界歴史7　イスラムの蔭に』（河出書房新社〈河出文庫〉、1991年）

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