ハヤカワ・ポケット・ミステリ

ハヤカワ・ポケット・ミステリ（HPB）：日本のミステリ史を彩る名叢書

ハヤカワ・ポケット・ミステリ（通称：ポケミス、略称：HPB）は、早川書房が刊行する新書判の翻訳ミステリ専門叢書です。そのキャッチコピーである「世界最高最大のミステリ・シリーズ」が示す通り、日本のミステリ界において非常に大きな存在感を持ち、長年にわたって多くの読者に愛され続けてきました。

黎明期から現在まで：変遷と発展

1953年、ミッキー・スピレイン『大いなる殺人』を皮切りにスタートしたHPB。初期の企画には、遠藤慎吾氏、宮田昇氏（瀬沼茂樹氏の助言も受け）、そして担当編集者となった田村隆一氏、そして江戸川乱歩氏や植草甚一氏らが関わりました。当初は古典作品を中心に、全500巻で完結を予定していましたが、その後、ハヤカワ・ノヴェルズ、ハヤカワ文庫NV、ハヤカワ・ミステリ文庫といったシリーズの登場によって刊行ペースは変化していきました。2010年時点で1842冊を数え、現在も刊行が続けられています。全盛期には毎週木曜日に新刊が登場するほど盛況を極め、日本のミステリ文化に大きな影響を与えました。

ラインナップには、海外の著名なミステリ作家たちの作品が多数収録されている他、日本の作家による作品も複数収録されています。中には、レイモンド・ポストゲイト『十二人の評決』のように、旧訳と改訳版がそれぞれ異なる番号で収録されている作品もあります。また、ミステリ以外の作品として、怪奇小説のアンソロジーや伝記なども刊行されています。2003年には、『ハヤカワ・ミステリ総解説目録―1953年‐2003年』がHPBの一冊として刊行され、シリーズの歴史を振り返る貴重な資料となっています。

特徴的な装丁：変遷とデザイン

HPBの特徴的な装丁も、長年にわたって愛されてきた理由の一つです。小口と天地が黄色に染色され、表紙下部には「A HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK」の文字が記されています。背下部には、当初は文字がなく、その後「ポケット・ブック」、そして六角形の枠に囲まれた「H･P･B」と変化し、現在に至ります。裏表紙上部にも、当初は「江戸川亂歩監修　世界探偵小説全集」と記されていましたが、その後「江戸川亂歩監修　世界ミステリシリーズ」「世界ミステリシリーズ」を経て「ハヤカワ・ミステリ」に落ち着いています。

判型は独自サイズの「ポケット・ブック判」（縦18.4cm、横10.6cm）を採用しており、これは宮田昇氏が南雲堂在籍時に携わった英語対訳本「フェニックス・ライブラリー」を参考にしたと言われています。表紙絵は永田力氏による具象画から始まり、その後は主に勝呂忠氏による抽象画が用いられてきました。2010年には勝呂忠氏の死去に伴い、ブックデザインがリニューアルされ、水戸部功氏が新しいデザイナーに就任。レーベルロゴや文字も大きくなり、現代的なデザインへと生まれ変わりました。

日本ミステリへの貢献：作家と作品

HPBは、海外ミステリの翻訳を通して、日本のミステリ文化の発展に大きく貢献してきました。しかし、日本のミステリ作家たちの作品も積極的に取り上げており、浜尾四郎、小栗虫太郎、夢野久作といった作家たちの作品も収録されています。これらは、日本のミステリの歴史を知る上で貴重な資料となっています。

まとめ：時代を超えて愛されるシリーズ

ハヤカワ・ポケット・ミステリは、単なる翻訳ミステリの叢書ではありません。その歴史、装丁、そして収録作品は、日本のミステリ文化を語る上で欠かすことのできない重要な存在です。創刊から現在まで、多くの読者に愛され続けてきたその魅力は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。今後も、新たな作品が加わり、シリーズの歴史は紡がれていくことでしょう。

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