ハヤフサヒデト
ハヤフサ ヒデト（隼秀人）は、1904年（明治37年）11月7日に生まれ、1991年（平成3年）6月11日に亡くなった日本の多才な映画人です。俳優、映画監督、そして脚本家として活動し、本名は広瀬 数夫といいます。
彼は「昭和の鳥人」という異名で親しまれ、日本の映画史において冒険活劇というジャンルを確立した戦前期を代表するアクション・スターでした。特に、自らの身体能力を駆使して危険なスタントをこなすスタイルは、日本の「スタントマンを必要としないアクション・スターの先駆け」と称されています。
広島県広島市で生まれた（呉市説もあります）ハヤフサは、身長160センチ、体重62キロと小柄ながらも、並外れた運動神経の持ち主でした。旧制中学を二年で中退した後、柔道教師を務めた経験を持ちます。1923年には伊太利サーカス団に入団。持ち前の軽快な動きを活かし、翌年には京都での巡業で日本人として初めて空中飛行を成功させ、「空中飛行専門士」として活躍しました。柔道では三段の腕前で、大日本武徳会で指導にあたっていた時期もあったと言われています。
映画界への転機は1926年。尾上松之助の紹介で日活に入社し、「隼秀人」の芸名で『水戸黄門』や『剣侠』などに出演します。翌年日活を離れ、東亜キネマへ移籍。ここで彼の卓越した運動能力が注目され、怪奇時代劇『慶安妖飛録』で主役に抜擢されました。1931年には大江秀夫監督の『踊る若者』で現代劇に進出。大正時代の人気スター高木新平になぞらえ、「昭和の鳥人スター」として名声を確立しました。大江監督とのコンビは強力で、数々の活劇や冒険物で主演を務め、人気を不動のものとします。
東亜キネマが東活映画に引き継がれると、ハヤフサは俳優としてだけでなく、原作や脚本も手掛けるようになります。東活解散後は宝塚キネマを経て、1933年には経営難に陥った同社を離れ、大江監督と共に大都映画に迎えられました。1934年の『与太者学第一課』からは芸名をカタカナの「ハヤブサヒデト」に改め、1935年の『闇に叫ぶ狼』からは「八代哲」や「八代毅」といった名義で監督業にも本格的に乗り出します。
大都映画時代は彼のキャリアの絶頂期でした。この時期に主演作約70本、監督作約60本、そして自作自演を兼ねた作品が約48本と、驚異的な数の映画を手掛けています。大都映画の看板スターとして、まさに時代の寵児となりました。スタントマンを使わずに、ビルの間を飛び移ったり、バイクでビルの屋上や線路を疾走したりといった、サーカス仕込みの派手で迫力あるアクションは、当時の観客を魅了し、大人から子供まで熱狂させました。これらのアクションスタイルは、後の時代劇や特撮作品（例えば月光仮面など）にも影響を与えたと言われています。私生活でも華があり、撮影所には愛用のバイクで颯爽と現れ、共演した人気女優で大都映画創立者の娘である琴路美津子と結婚するなど、絵に描いたような成功を収めました。
しかし、1940年の映画会社の新体制への再編から外れる形で大都を退社。戦時中には満州映画協会（満映）に監督として招かれ、妻を説得して満州へ渡ります。ここでは本名である「広瀬数夫」名義で監督を務め、第2の李香蘭を育成するよう指示されたというエピソードや、芦田伸介のデビュー作『血銭芙蓉』を含む3本の作品を監督しました。満映の理事長であった甘粕正彦に可愛がられたと言われ、甘粕が自決に用いた青酸カリを渡したのはハヤフサだった、という話も伝えられています。終戦後、混乱の中で妻を病気で亡くし、自らも辛うじて日本へ帰国しました。
日本に戻ったハヤフサは、1948年に松竹に入社し、江戸川乱歩原作の『一寸法師』で俳優として復帰。1949年には映畫配給の初製作作品『快傑ハヤブサ』で監督・主演を務めます。しかし、文芸作品が主流となっていた当時の日本映画界では、かつてのような活躍の場は限定されていました。知人の紹介もあり、1951年には山口県下関市の下関松竹で劇場の支配人に転身。『東京物語』などの名作の興行を手がけるなど、裏方として映画に携わります。俳優としての最後の出演は、1953年の新人女優・岸惠子の主演作『疾風からす隊』の端役でした。
映画界から完全に身を引いた後、下関で「バー・ハヤフサ」を経営します。その後二度一般人女性と結婚し、1970年には三人目の妻と共に東京へ戻り、小岩で再びバーや小料理屋を経営しましたが、この妻とも死別しました。1980年頃からは、埼玉県の娘の家に身を寄せ、晩年は埼玉県の老人ホームで過ごしました。糖尿病による失明に苦しみながらも、施設の生活を映画にすることを夢見て脚本を書き続けていたと言われています。1991年、86年の生涯を閉じました。
ハヤフサが全盛期を過ごした大都映画の作品は、当時から「粗製乱造」と批評家には顧みられず、現在もその評価は大きく変わっていません。また、大都映画自体が戦時中に統合されて消滅し、多くのフィルムが失われたこともあり、ハヤフサ自身も長らく忘れられた存在となっていました。しかし、2000年代に入って現代美術家の岩井成昭が、大都映画の撮影所があった東京・西巣鴨での地域活性化プロジェクトに関わる中でハヤフサの存在を知り、調査を開始したことから状況が変わります。地元の住民と共にハヤフサの生涯を探るドキュメンタリー映画『ハヤブサ・ヒデトを探して』が制作され、さらに現存する唯一の大都映画時代の主演作『争闘阿修羅街』が発見・上映されるなど、近年になって彼の業績と存在が再び注目を集めています。
彼は「昭和の鳥人」という異名で親しまれ、日本の映画史において冒険活劇というジャンルを確立した戦前期を代表するアクション・スターでした。特に、自らの身体能力を駆使して危険なスタントをこなすスタイルは、日本の「スタントマンを必要としないアクション・スターの先駆け」と称されています。
広島県広島市で生まれた（呉市説もあります）ハヤフサは、身長160センチ、体重62キロと小柄ながらも、並外れた運動神経の持ち主でした。旧制中学を二年で中退した後、柔道教師を務めた経験を持ちます。1923年には伊太利サーカス団に入団。持ち前の軽快な動きを活かし、翌年には京都での巡業で日本人として初めて空中飛行を成功させ、「空中飛行専門士」として活躍しました。柔道では三段の腕前で、大日本武徳会で指導にあたっていた時期もあったと言われています。
映画界への転機は1926年。尾上松之助の紹介で日活に入社し、「隼秀人」の芸名で『水戸黄門』や『剣侠』などに出演します。翌年日活を離れ、東亜キネマへ移籍。ここで彼の卓越した運動能力が注目され、怪奇時代劇『慶安妖飛録』で主役に抜擢されました。1931年には大江秀夫監督の『踊る若者』で現代劇に進出。大正時代の人気スター高木新平になぞらえ、「昭和の鳥人スター」として名声を確立しました。大江監督とのコンビは強力で、数々の活劇や冒険物で主演を務め、人気を不動のものとします。
東亜キネマが東活映画に引き継がれると、ハヤフサは俳優としてだけでなく、原作や脚本も手掛けるようになります。東活解散後は宝塚キネマを経て、1933年には経営難に陥った同社を離れ、大江監督と共に大都映画に迎えられました。1934年の『与太者学第一課』からは芸名をカタカナの「ハヤブサヒデト」に改め、1935年の『闇に叫ぶ狼』からは「八代哲」や「八代毅」といった名義で監督業にも本格的に乗り出します。
大都映画時代は彼のキャリアの絶頂期でした。この時期に主演作約70本、監督作約60本、そして自作自演を兼ねた作品が約48本と、驚異的な数の映画を手掛けています。大都映画の看板スターとして、まさに時代の寵児となりました。スタントマンを使わずに、ビルの間を飛び移ったり、バイクでビルの屋上や線路を疾走したりといった、サーカス仕込みの派手で迫力あるアクションは、当時の観客を魅了し、大人から子供まで熱狂させました。これらのアクションスタイルは、後の時代劇や特撮作品（例えば月光仮面など）にも影響を与えたと言われています。私生活でも華があり、撮影所には愛用のバイクで颯爽と現れ、共演した人気女優で大都映画創立者の娘である琴路美津子と結婚するなど、絵に描いたような成功を収めました。
しかし、1940年の映画会社の新体制への再編から外れる形で大都を退社。戦時中には満州映画協会（満映）に監督として招かれ、妻を説得して満州へ渡ります。ここでは本名である「広瀬数夫」名義で監督を務め、第2の李香蘭を育成するよう指示されたというエピソードや、芦田伸介のデビュー作『血銭芙蓉』を含む3本の作品を監督しました。満映の理事長であった甘粕正彦に可愛がられたと言われ、甘粕が自決に用いた青酸カリを渡したのはハヤフサだった、という話も伝えられています。終戦後、混乱の中で妻を病気で亡くし、自らも辛うじて日本へ帰国しました。
日本に戻ったハヤフサは、1948年に松竹に入社し、江戸川乱歩原作の『一寸法師』で俳優として復帰。1949年には映畫配給の初製作作品『快傑ハヤブサ』で監督・主演を務めます。しかし、文芸作品が主流となっていた当時の日本映画界では、かつてのような活躍の場は限定されていました。知人の紹介もあり、1951年には山口県下関市の下関松竹で劇場の支配人に転身。『東京物語』などの名作の興行を手がけるなど、裏方として映画に携わります。俳優としての最後の出演は、1953年の新人女優・岸惠子の主演作『疾風からす隊』の端役でした。
映画界から完全に身を引いた後、下関で「バー・ハヤフサ」を経営します。その後二度一般人女性と結婚し、1970年には三人目の妻と共に東京へ戻り、小岩で再びバーや小料理屋を経営しましたが、この妻とも死別しました。1980年頃からは、埼玉県の娘の家に身を寄せ、晩年は埼玉県の老人ホームで過ごしました。糖尿病による失明に苦しみながらも、施設の生活を映画にすることを夢見て脚本を書き続けていたと言われています。1991年、86年の生涯を閉じました。
ハヤフサが全盛期を過ごした大都映画の作品は、当時から「粗製乱造」と批評家には顧みられず、現在もその評価は大きく変わっていません。また、大都映画自体が戦時中に統合されて消滅し、多くのフィルムが失われたこともあり、ハヤフサ自身も長らく忘れられた存在となっていました。しかし、2000年代に入って現代美術家の岩井成昭が、大都映画の撮影所があった東京・西巣鴨での地域活性化プロジェクトに関わる中でハヤフサの存在を知り、調査を開始したことから状況が変わります。地元の住民と共にハヤフサの生涯を探るドキュメンタリー映画『ハヤブサ・ヒデトを探して』が制作され、さらに現存する唯一の大都映画時代の主演作『争闘阿修羅街』が発見・上映されるなど、近年になって彼の業績と存在が再び注目を集めています。
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