ハリー・コーン

ハリー・コーン：ハリウッドの暴君と呼ばれた男

ハリー・コーン（1891年7月23日 - 1958年2月27日）は、20世紀ハリウッドを代表する映画プロデューサーであり、コロムビア映画の社長として名を馳せました。その名は、類まれな成功と、同時に独裁的な経営スタイルから「キング・コーン」の異名で知られています。彼の生涯は、アメリカンドリームの成功物語と、権力の影の部分を鮮やかに映し出しています。

労働者階級からハリウッドの頂点へ

ニューヨークの労働者階級、東欧系ユダヤ人の家庭に生まれたコーンは、車掌を経て楽譜印刷会社の営業マンとして働いていました。この経験が、兄ジャックが既に身を置いていたユニバーサル映画への道を切り開きます。1924年、ジャックとハリー・ブラントと共に、コロムビア映画の前身となるCBC映画販売社を設立。ジャックがニューヨークで財務を担う一方、ハリーはハリウッドでの映画製作の中心人物となりました。兄弟の仲は常に良好だったわけではなく、意見の相違も少なくありませんでしたが、ブラントとの関係は深く、最終的にブラントは会社の株の3分の1をハリーに譲渡するまでに至ります。

B級映画から名作への飛躍

当初は主にB級映画の製作に携わっていたコロムビア映画は、コーン兄弟の時代を経て急速に成長しました。フランク・キャプラ監督といった巨匠との協業や、ジーン・アーサー、スリー・ストゥージズ、リタ・ヘイワース、ウィリアム・ホールデンといったスター俳優を起用することで、コロムビア映画は着実に評価を高めていきました。業界内では「コーンが経営する限り、コロムビアは決して赤字にならない」という噂が立つほど、彼の経営手腕は高く評価されました。

独裁者としての影

しかし、コーンの成功の裏には、その独裁的な経営スタイルがありました。従業員からは「ハリウッド史上最悪の暴君」と評され、スタジオは彼の私的な警察国家のようだったと言われています。盗聴器が設置されたスタジオでは、彼の怒号がいつどこから飛んでくるか分からず、従業員たちは常に緊張感を強いられていたといいます。この暴君としての評判は、従業員のやる気を引き出すための戦略だったという説や、単に彼の権力維持のためだったという説など、様々な解釈がされています。

政治とマフィアとの繋がり

コーンの私生活にも注目すべき点があります。彼は1933年にイタリアでムッソリーニと会見し、サイン入りの肖像写真を手に入れています。第二次世界大戦が始まるまで、この写真は彼の机の上に飾られていたと言われています。また、マフィアとの繋がりも指摘されており、ジョン・ロッセーリとの旧友関係や、ユダヤ系ギャングのアブナー・ツヴィルマンからの資金援助は、彼の成功の背景にある複雑な要素の一つです。さらに、女優へのセクハラ疑惑もささやかれましたが、これは当時のハリウッドでは珍しいことではありませんでした。

『オール・ザ・キングスメン』とピーター・フォーク

1949年のアカデミー賞受賞作品『オール・ザ・キングスメン』では、主人公のモデルとしてコーンの名前が挙げられています。監督のロバート・ロッセンは、主演俳優ブロデリック・クロフォードに「この役を演じるにはハリー・コーンを思い浮かべてくれればいい」と助言したと伝えられています。一方、既に高い評価を得ていた俳優ピーター・フォークを、オーディションで落とした逸話も残っています。「同じギャラを払うなら、もっと才能のある俳優を使う」というコーンの発言は、彼の冷酷さと高い要求水準を象徴するエピソードと言えます。

華麗なる葬儀と永遠の眠り

1958年に亡くなったコーンには、ハリウッド関係者多数が出席する大規模な葬儀が営まれました。葬儀では、クリフォード・オデッツの弔辞がダニー・ケイによって朗読され、彼の波乱に満ちた生涯に幕が下ろされました。現在、彼の遺体はハリウッド・フォーエヴァー墓地に眠っています。彼の存在は、ハリウッド黄金期の繁栄と、その裏に潜む影を同時に象徴する存在として、これからも語り継がれていくでしょう。

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