ハリー・ハルプライヒ

ハリー・ハルプライヒ（1931年2月9日 - 2016年6月27日）は、ベルギーを拠点に活動した著名な音楽学の研究者であり、鋭い洞察力を持つ音楽評論家でした。

彼は1931年、ドイツのベルリンにて、ユダヤ系ドイツ人の父とイギリス人の母の間に生まれました。音楽教育のためフランスに渡り、パリ音楽院で学びました。ここでは、アルテュール・オネゲルから作曲を、オリヴィエ・メシアンからは楽曲分析を師事し、特に楽曲分析と音楽史の分野では首席となるなど、学業において優れた成績を収めました。

学業を終えた後、ハルプライヒはベルギーに移住し、多岐にわたる音楽関連の活動を展開しました。1970年から1976年にかけては、モンス王立音楽院で楽曲分析の講師として教鞭を執り、次世代の音楽家の育成に貢献しました。教育活動に加え、いくつかの放送局で音楽番組に携わり、幅広い聴衆に音楽の世界を紹介しました。また、音楽専門誌『クレシェンド』の共同創刊者の一人となり、同誌の主要な寄稿者として多くの評論を発表しました。さらに、1973年から1976年の間は、フランスのルーアン音楽祭において芸術監督を務め、音楽祭のプログラム編成や運営において中心的な役割を果たしました。

ハルプライヒの研究活動は、主に20世紀以降の近現代音楽に深く根差していました。彼は特に、オリヴィエ・メシアン、クロード・ドビュッシー、アルテュール・オネゲル、ボフスラフ・マルティヌーといった重要な作曲家に関する数多くの著作、記事、研究を発表しました。中でも特筆すべきは、アルテュール・オネゲルとボフスラフ・マルティヌーの全作品を網羅した体系的な作品目録を作成したことです。この功績は非常に大きく、今日でもこれらの作曲家の作品は、ハルプライヒが定めた「H番号」と呼ばれる整理番号を用いて分類・参照されることが一般的となっています。彼の専門的な知識は、実践的な音楽プロジェクトにも貢献しました。例えば、1918年に書かれたオネゲルの初期の歌劇《聖女アルメーヌの死》が、作曲家ニコラ・バクリによってオーケストレーションされる際には、ハルプライヒが重要な補佐役を務めました。この新しいオーケストレーション版は、オネゲルの没後50周年を記念して、2005年11月26日にオランダのユトレヒトで初演されています。

近現代音楽への深い探求心は、さらに同時代の音楽、とりわけ「スペクトル楽派」として知られる前衛的な作曲家たち（ホラティウ・ラドゥレスク、イアンク・ドゥミトレスク、アナ＝マリア・アヴラム、ジェラール・グリゼー、トリスタン・ミュライユなど）への関心へと広がりました。彼はこれらの作曲家に関する論考を執筆し、その革新的な音楽の紹介に努めました。ハルプライヒは、現代音楽の第一線で活躍する演奏家たちだけでなく、ルイージ・シェルシ、ヴィトルド・ルトワフスキ、ジェルジ・リゲティ、ヤニス・クセナキスといった20世紀後半を代表する作曲家たちとも個人的な交流を持ち、特に若い世代の才能ある作曲家たちの熱心な支持者としても知られていました。彼の研究対象は非常に幅広く、エドガー・ヴァレーズやレオ・オアナといった近代の作曲家、ジョルジェ・エネスク、アルベリク・マニャール、ガブリエル・フォーレといったフランスの作曲家だけでなく、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、ジャン＝マリー・ルクレール、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ、ヨハン・ディスマス・ゼレンカ、マルカントワーヌ・シャルパンティエ、フランシスコ・ゲレーロといったバロック以前や古典派の作曲家についても深い洞察に基づいた論述を行いました。このことは、彼の音楽史全体に対する包括的な視座を示しています。

音楽学の研究者としてだけでなく、ハルプライヒは文化全般に対しても広い関心を持っていました。彼はローマ・カトリックに改宗したという一面を持ちながら、キリスト教の神話体系だけでなく、東洋の精神文化史についても深い造詣を示しており、その博識ぶりは音楽の領域にとどまりませんでした。

私生活においては、3人の子供をもうけました。そのうち長男のフレデリックは画家として活動しています。

ハリー・ハルプライヒは2016年6月27日、85歳で、居住地であったベルギーのブリュッセルにてその生涯を終えました。彼の音楽学における多大な貢献、特にオネゲルとマルティヌーの作品目録作成による功績は、両作曲家の研究において不可欠な基盤となっています。また、近現代音楽、そして同時代の現代音楽への情熱的な探求と擁護は、今日の音楽シーンにも影響を与え続けています。彼の遺した著作や研究は、後世の音楽研究者や音楽愛好家にとって貴重な財産となっています。

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