ハレ市電

ドイツの中部に位置するハレ（ザーレ）市とその周辺地域の公共交通を担う路面電車、それがハレ市電です。特に注目すべきはその長い歴史で、1891年4月に電化された区間は、現存するドイツおよびヨーロッパの路面電車路線の中で最も古いものとして知られています。現在、この路線はシュタットベルケ・ハレ傘下のハレ交通会社（Hallesche Verkehrs-AG、HAVAG）によって運営されています。

ハレ市電の起源は1882年にさかのぼります。当時、ハレ軌道という事業者が運行していた馬車鉄道がそのルーツです。この路線は車体の色が赤かったことから「赤鉄道」と呼ばれ親しまれていました。その後、1889年には新たにハレ郊外鉄道が開業し、こちらも馬車鉄道でしたが、緑色の車体から「緑鉄道」と呼ばれ、「赤鉄道」と競合関係に入ります。競争の中で、ハレ郊外鉄道は電化による優位性を目指し、電機メーカーAEGの傘下に入ります。そして1891年4月24日、ドイツで初めて本格的な電気運転による路面電車が開業しました。この電化の成功はドイツ国内各地での路面電車導入を促す大きな原動力となり、ハレ軌道も後に電化を実現しました。両社は1917年に合併し、ハレ都市軌道となり、1929年からはハレ市の公営事業として運営されることになります。

市内の路面電車とは別に、1902年にはハレと隣接する都市メルゼブルクを結ぶ都市間路面電車が開業しています。当初は私営でしたが、ロイナへの延伸を経て、第二次世界大戦後の東ドイツ成立後の1951年にハレ市の管理下に統合されました。東ドイツ時代、ハレ市電は一部路線の廃止も経験しましたが、1970年代以降は再び延伸が進められました。特に1971年にバート・デュレンベルクまで延伸された5号線は、営業キロが30.7kmとなり、東ドイツで最長の路面電車路線となりました。1980年代にはこの5号線を利用した貨物輸送も行われ、チェコスロバキア製のタトラカー（タトラT4）が大量に導入され、長期にわたり主力車両として活躍しました。

ドイツ再統一直前の1990年、ハレ市電の運営はハレ交通会社（HAVAG）に移管されました。再統一後のモータリゼーションの進展やハレ市の人口減少により利用者は一時的に減少しましたが、市電はその重要性を失うことなく、交通の基幹を担い続けました。1998年からはノイシュタット方面への新線建設プロジェクトが進められ、1999年から2012年にかけて順次開業しています。また、既存の路線についても大規模な近代化工事が実施されました。サービス向上の一環として、1992年からはバリアフリーに対応した超低床電車の導入が開始され、長年使用されてきたタトラカーの置き換えが進められています。

2021年現在、ハレ市電は13の系統で運行されています。大部分の路線はハレ市内を網羅していますが、特筆すべきは前述の5号線で、ハレから遠く離れたメルゼブルクやバート・デュレンベルクといった周辺地域までを結ぶ長距離路線として機能しています。

現有車両は、かつての主力であるタトラカーの更新車が一部残るものの、大半が超低床電車となっています。1996年から導入されたハレ市電初の超低床電車であるMGT6D、そしてボンバルディア社製のフレキシティ・クラシックであるMGTKとその改良型MGTK-2などが主力として運行されています。これらの低床車両は、乗降のしやすさなどバリアフリー面で大きな改善をもたらしました。ハレ市電で使用されてきた歴史的な車両の多くは、ゼーベナー通りにある路面電車博物館に保存されており、ハレ路面電車友の会によって維持・管理されています。中には動態保存されている車両もあり、特別なイベントや貸切で運行される機会もあります。

ハレ市電は未来へ向けた取り組みも進めています。2013年以降、「シュタットバーン・ハレ（STADTBAHN Halle）」と名付けられた高速化・近代化計画が進行中です。この計画では、軌道の専用化などを通じて運行速度の向上や騒音の抑制、施設の改善を図り、より効率的な交通システムを目指しています。主要な路線で順次工事が進められています。また、旧型車両であるMGT6Dの置き換えのため、2021年に入札が行われ、2022年にはスイスのシュタッドラー・レール社が新型車両「ティナ（TINA）」シリーズを製造する契約を獲得しました。これらの新型超低床電車は2024年から製造が始まり、2025年末からの営業運転開始が予定されており、ハレ市電の輸送力をさらに高め、サービスの向上に貢献することが期待されています。長い歴史を持つハレ市電は、過去の遺産を受け継ぎながらも、常に進化を続け、地域住民にとって不可欠な交通インフラとして走り続けています。

もう一度検索