ハロルド・ニコルソン

サー・ハロルド・ニコルソン：外交官、歴史家、そして文筆家

サー・ハロルド・ジョージ・ニコルソン（1886年11月21日-1968年5月1日）は、20世紀イギリスを代表する外交官、歴史家、そして作家でした。外交に関する専門的な著作から、詩人ヴェルレーヌやバイロンといった文豪の評伝まで、幅広い分野でその才能を発揮しました。その多様な活動と、名門貴族の血筋を引く華麗な一族は、彼の人生を彩る魅力的な要素となっています。

華麗なる経歴：外交官としての活躍

イランのテヘランに生まれたニコルソンは、名門オックスフォード大学ベリオール校を卒業後、イギリス外務省に入省。パリ講和会議にもイギリス代表団の一員として参加するなど、華々しいキャリアを歩みます。1929年まで外務省に勤務した後、1935年から1945年にかけてはイギリス下院議員を務めました。外交官としての経験は、彼の後の著作に大きな影響を与えました。特に有名なのは『外交』という著作で、外交における政策決定と交渉という二つの側面を明確に区別し、交渉は専門家に委ねるべきだと主張しました。これは、世論の影響が強まる現代外交において、重要な提言でした。

文筆家としての多様な才能

外交官としての活動と並行して、ニコルソンは文筆家としても成功を収めました。彼の著作は、外交に関する専門書にとどまらず、詩人や作家の評伝も数多く含まれています。ヴェルレーヌ、バイロン、テニスン、スウィンバーンなど、著名な文豪たちの生涯と作品を詳細に分析した評伝は、高い評価を受けました。これらの作品を通して、ニコルソンは単なる外交官ではなく、文学にも造詣の深い教養人であることを示しました。さらに、彼は自身の経験を活かした小説やエッセイなども執筆しており、その文筆活動は多岐に渡ります。

名家の出身と家族：ブルームズベリー・グループとのつながり

ニコルソンの父であるアーサー・カーノックは、イギリス外務省で事務次官を務めた人物で、知的な交友関係も広く、ブルームズベリー・グループとも交流がありました。このグループは、イギリスにおける20世紀モダニズムを代表する文人・芸術家たちの集まりで、ニコルソン家もこの文化的な潮流に深く関わっていたことが分かります。

ニコルソンの妻は、著名な詩人で作家のヴィタ・サックヴィル＝ウェストです。彼女はブルームズベリー・グループの中心人物でもあり、夫妻は互いに創作活動を刺激し合う関係にあったと言われています。二人の息子、ベネディクト（美術史家）とナイジェル（伝記作家）も、それぞれそれぞれの分野で成功を収めました。ナイジェルは母の評伝を著しただけでなく、父の日記や書簡も編纂しており、ニコルソン家の歴史を後世に伝える役割を果たしました。さらに、ニコルソンの兄は第3代カーノック男爵、孫は第5代カーノック男爵と、代々続く貴族としての地位も、彼の人生を理解する上で重要な要素となっています。

王室からの叙勲と日本の皇室への影響

1953年、ジョージ5世の公式伝記を著した功績により、ニコルソンはロイヤル・ヴィクトリア勲章ナイト・コマンダーに叙せられ、ナイトの称号を得ました。このジョージ5世の伝記は、日本の小泉信三によって、後の明仁天皇（上皇）の帝王教育に用いられたという逸話も残っています。これは、ニコルソンの著作が、イギリスのみならず日本においても大きな影響を与えたことを示す興味深いエピソードです。

結論：多才な人生の軌跡

外交官としての経験、歴史家としての洞察力、そして作家としての表現力。サー・ハロルド・ニコルソンは、これら全てを兼ね備えた稀有な人物でした。彼の残した著作は、外交史、文学史、そして20世紀イギリスの歴史を理解する上で、今もなお重要な資料であり続けています。その多才な人生は、多くの後世の人々に影響を与え、記憶に留められるべき偉大な足跡です。彼の著作を通して、20世紀の激動期を生き抜いた彼の知性と洞察に触れることができるでしょう。

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