ハンドレページ W.8

ハンドレページ W8：黎明期の空を彩った旅客機

ハンドレページ W8（Handley Page W8）は、イギリスの航空機メーカー、ハンドレページ社が開発した双発の複葉旅客機です。1919年12月2日に原型機が初飛行し、その後の航空輸送の発展に重要な役割を果たしました。25機が製造され、インペリアル・エアウェイズやサベナ・ベルギー航空などの主要航空会社で運用されました。

W8の誕生と特徴

W8（またはH.P.18）は、ハンドレページ社にとって最初の民間旅客機であり、開放式のコクピットに搭乗員が乗り込み、15人の乗客を収容できる客室を備えていました。1919年のル・ブルジェ航空ショーで展示された後、同年12月4日に2基のネイピア ライオンエンジン（各450馬力）を搭載して初飛行しました。特筆すべきは、世界初の化粧室を備えた旅客機であるという点です。乗客の快適性を追求する姿勢が、この時代から既に存在していたことが伺えます。

様々な派生型

W8は、その後の改良により、様々な派生型が生まれました。主なものとして、W8b、W8e（H.P.26）、W9（H.P.27）、W10（H.P.30）などがあります。

W8b: 航空省の規格に適合させるため、乗客数を12人に減らし、燃料タンクの位置を変更しました。1921年には航空省が3機を発注し、ハンドレページ・トランスポートで使用されました。エンジンをロールスロイス イーグルIXエンジンに換装し、インペリアル航空でパリ、ブリュセル路線で活躍しました。1924年には1機がサベナ・ベルギー航空に納入され、さらにサベナ・ベルギー航空は3機をベルギーのSABCAでライセンス生産しました。
W8e: 信頼性向上のため、3発機に改造されました。機首に360馬力のロールスロイス イーグルIXエンジン、両翼に240馬力のシドレー ピューマエンジンを搭載しました。初号機はサベナ・ベルギー航空に納入され、10機がベルギーのSABCAでライセンス生産されました。
W8f: 客室にエンジン排気を利用した暖房空調を導入しました。
W8g Hamilton: 尾翼とラダーが改造されたモデル。
W10: エンジンをロールスロイス イーグルIXエンジン双発に戻したモデル。
W9a Hampstead: 385馬力のアームストロング シドレー ジャガー IVエンジン3発機。インペリアル航空所属機がロンドン・パリ間で86分の記録を達成。1926年には420馬力のブリストル ジュピターエンジンに換装された後、オーストラリアに売却されましたが、9ヶ月後に事故で失われました。

引退とその後

1931年、インペリアル航空がハンドレページ HP.42を導入したことで、Wシリーズは旅客輸送から引退し、個人向けに放出されました。その後、2機のW10がアラン・コブハムによって給油機に改造され、新たな役割を担いました。

事故の記録

W8シリーズは、その歴史の中でいくつかの事故を経験しました。

1923年7月10日: ハンドレページ・トランスポートのG-EAPJ Duchess of Yorkがエンジン故障でフランスのポーに不時着。着陸時に道路に衝突し機体が破損しましたが、乗客に怪我はありませんでした。
1926年10月21日: インペリアル航空のG-EBMSがドーバー海峡に不時着水しましたが、乗員と乗客18名は救助されました。
1928年2月15日: インペリアル航空のG-EAPJ Princess Maryがフランスのアブビルで墜落しました。
1929年6月17日: インペリアル航空のG-EBMT City of Ottawaがドーバー海峡に不時着水し、7名が犠牲となりました。
1930年5月31日: Ellyou金鉱開発公社のVH-ULKがパプアニューギニアのサラマウア付近の山に墜落しました。
1930年10月30日: インペリアル航空のG-EBIX City of Washingtonがフランスのアブヴィルで墜落しました。
1934年9月22日: アラン・コブハムのナショナル・アビエーション・ディスプレイのG-EBMM Youth of New ZealandがイギリスのClintonで墜落しました。

これらの事故は、当時の航空機の技術的な限界と、初期の航空輸送におけるリスクを物語っています。

主要諸元 (W.8f)

乗員: 2名
乗客: 12名
全長: 18.33 m
全幅: 22.92 m
全高: 5.18 m
翼面積: 135.3 m2
空虚重量: 3,910 kg
全備重量: 5,910 kg
エンジン: 1 × ロールスロイス イーグルIX V-12 (360馬力) + 2 × シドレー ピューマ (240馬力)
最高速度: 166 km/h
巡航速度: 137 km/h
* 上昇限度: 3,960 m


ハンドレページW8は、初期の旅客機としての役割を終えた後も、給油機として新たな活躍の場を見つけました。その歴史は、黎明期の航空技術と、空の旅の可能性を追求した人々の情熱を今に伝えています。

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