スノッブ

スノッブ（snob）という言葉は、一般的には俗物や見栄っ張りを指し、スノビズム（snobbism）はそうした俗物根性を意味します。具体的には、自らの知識や教養を誇示する気取り屋、上の立場の者に媚びへつらい、下の者を見下す人物、あるいは紳士を装った俗っぽい振る舞いをする人などに対して使われます。

しかし、この言葉は必ずしも批判的なニュアンスだけを持つわけではありません。特にファッションや文化の分野では、耽美的な感性やダンディズム、さらには粋や洒落といった、肯定的または中立的な意味合いで用いられることもあります。

語源の変遷

「スノッブ」の語源は、元々はイギリスの学生たちの間で使われていた隠語に遡るとされています。その起源にはいくつかの説がありますが、代表的なものとして以下の二つが挙げられます。

ラテン語説: ラテン語の「sine nobilitate」を短縮した形とする説です。これは「貴族階級でない者」、すなわち平民や身分の低い人々を指す言葉でした。
靴屋説: 18世紀初頭のケンブリッジ大学で、学生たちが「大学に出入りするが、大学に関係のない人々」を指す際に隠語として「靴屋（snob）」という言葉を使用しており、これが語源になったという説です。

権威あるオックスフォード英語辞典は、この靴屋説を支持しています。同辞典によれば、元々は身分の上下とは無関係に使用されていたこの言葉が、19世紀頃から徐々に意味を変化させ、「本来は貴族ではない身分の低い者が、貴族の真似をする」といった現在のニュアンスで使われるようになったと説明されています。ちなみに、スコットランドでは現在でも「snob」という言葉は「靴屋」を意味しています。

歴史的背景と文学作品

「スノッブ」という言葉が広く一般に知られるようになったのは、1848年にイギリスの作家ウィリアム・メイクピース・サッカレーが著作『スノッブたちの書』（The Book of Snobs）を出版したことが大きなきっかけとなりました。この本で俗物たちがユーモラスかつ辛辣に描かれたことで、言葉は流行語となり、その影響は大きく、1866年にはフランスの隠語辞典にも収録されたと記録されています。

また、フランスの作家マルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』では、当時の社交界に集まる人々の俗物的な側面が鋭く描写されており、文学作品における「スノッブ」の代表的な例としてしばしば引用されます。

経済学における「スノッブ効果」

一般的な意味合いとはやや異なりますが、経済学やマーケティングの分野では、「スノッブ効果」という専門用語が存在します。これは、ある商品の消費が他の人々の間で増えると、かえってその商品の需要が減少するという現象を指します。人々が他人と同じものを持つことを嫌い、差別化を図ろうとする心理が背景にあります。高級ブランド品などが多くの人に普及すると、一部の消費者が購入を避けるようになる、いわゆる「ユニバレ」なども、このスノッブ効果の一例と言えるでしょう。

この概念は、アメリカの理論経済学者であるハーヴェイ・ライベンシュタインが、1950年に発表した論文「消費者需要理論におけるバンドワゴン効果、スノッブ効果、及びヴェブレン効果」の中で提唱しました。

関連語

アレクサンドル・コジェーヴ
衒学者

このように、「スノッブ」という言葉は、その語源や時代、そして使われる分野によって多様な意味合いを持つ興味深い概念と言えます。

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