レーテ

レーテ（Räte）とは

レーテ（ドイツ語: Räte）は、ドイツ革命前後のドイツで生まれた、労働者と兵士による評議会組織です。ロシア語の「ソビエト」（Совет）と同じ意味を持ちます。第一次世界大戦末期から戦後にかけて、ドイツ各地で自然発生的に生まれ、政治体制に大きな影響を与えました。

レーテの発生

1918年、第一次世界大戦でドイツ帝国の敗北が濃厚になるにつれ、各地で兵士のストライキやサボタージュが頻発しました。同年夏頃には、ストライキ委員会としてレーテが自然発生的に結成され始めます。同年11月4日、キール軍港で出撃命令を拒否した水兵を救出するため、レーテが結成されました。このレーテはキール反乱を主導し、参加した水兵たちは反乱後、各地でレーテ結成を支援しました。レーテによる蜂起が起こると、各地の政軍指導者は抵抗せず、レーテの主権を承認。その結果、ドイツ帝国を構成していた各邦の君主は退位に追い込まれ、「レーテ共和国」と呼ばれる新たな体制が各地に誕生し、レーテの存在と活動は革命と同義と見なされるようになりました。

新政府とレーテ

レーテ運動は首都ベルリンにも波及し、大規模なデモが発生。11月9日、マクシミリアン・フォン・バーデン首相は、ドイツ社会民主党のフリードリヒ・エーベルトに政権を委譲しました。フィリップ・シャイデマンが共和政を宣言した後、社会民主党、独立社会民主党、ドイツ民主党は、仮政府「人民委員評議会」を結成。ベルリンの労兵レーテはこの動きを承認しましたが、独立社会民主党左派の大ベルリン労兵レーテ執行評議会は、ドイツにおける最高権力を掌握すると宣言しました。

レーテの中には、海軍省や海軍軍令部を指揮下に置くなど、強大な権力を持つものも存在しました。

全国レーテ大会

レーテ執行評議会は、各地のレーテを州、郡、市町村ごとに再編成し、12月16日にベルリンで全国レーテ大会を開催。独立社会民主党はレーテ体制を強化し、レーテに基づく国家を樹立しようとしましたが、社会民主党は政府に協力的なレーテの設立を期待していました。しかし、レーテ執行評議会は内部対立により、12月初頭には政治的意義をほぼ失っていました。

全国レーテ大会には、全国から489名の代表評議員が参加。社会民主党系が多数を占める中、全政治的権力がレーテ大会にあるとされましたが、国民議会の決定まで臨時政府に権限を委ねる決議が採択されました。また、国民議会選挙は1919年1月19日に行われることになりました。独立社会民主党は共和国中央評議会への不参加を決定し、社会民主党が中央委員を独占しました。

海軍53人委員会の縮小も提案・可決されましたが、軍の首脳が兵士レーテの解散を命じた事実や、兵士レーテの一部が軍における階級制度の廃止を要求した事件も発生。社会民主党は「軍における階級の廃止、兵による指揮官の選挙、将校の特権的な地位の排除」を求める「ハンブルク条項」の可決を余儀なくされましたが、軍上層部や社会民主党にとって受け入れがたいものでした。

レーテ体制の終焉

エーベルトは共和国中央評議会との事前協議をほとんど拒否し、兵士レーテの同意も顧みられなくなっていきました。独立社会民主党は、社会民主党有利な情勢を判断し、12月28日に仮政府から離脱。1919年1月5日には、独立社会民主党員の警視総監解任をめぐり、スパルタクス団蜂起が発生しますが、政府によって鎮圧されました。政府内ではレーテ解体の動きが始まりましたが、共和国中央評議会ではレーテ存続を求める声も上がりました。しかし、2月24日、「ドイツ国民議会への中央評議会声明」が発表され、中央評議会は全権力を国民議会に委ね、政治的権力としての活動を終えました。

レーテの存続問題

ヴァイマル連合の首相はレーテを憲法に組み込まない方針を示しましたが、各地の労働者は猛反発。3月にはゼネラル・ストライキが発生しました。社会民主党はレーテを「労働議会」として発展させ、経済問題でイニシアチブを取らせる構想を持っていましたが、独立社会民主党はレーテによる経営監視と社会主義経済への移行を主張。政府は圧力に屈し、レーテを憲法に組み込むことを約束しました。

4月5日、政府はレーテが経済分野のみで活動できる憲法修正案を提示。企業家と各レーテの代表者が「地区経済レーテ」と「全国経済ラート」を形成するというものでした。全国経済ラートは政府の経済政策を審議し、独自の案を国会に提出できる権限を持ち、労働者レーテ、経済レーテには一定の監督権と行政権が委譲されることになりました。政府の構想はヴァイマル憲法165条として法制化され、レーテは「経営レーテ」（ドイツ語: Betriebsrat）として存続することになりました。

経営レーテ

経営レーテは、企業体内で自律的な労働者組織を作り、経営にも関与しようとするもので、従来の労働組合とは異なるものでした。労働組合との対立が激化しましたが、憲法と経営評議体法の成立により正式なものとなり、ヴァイマル共和政時代を通じて経済民主主義の理念のもとで活動を行いました。ナチス・ドイツ時代には活動が禁止されましたが、戦後復活し、現在もドイツの企業内に存在しています。

レーテ共和国

ドイツ革命期に各地で成立したレーテ共和国としては、バイエルン・レーテ共和国やブレーメン・レーテ共和国が代表的ですが、いずれも短期間で崩壊しました。

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