バイキングエンジン

バイキングエンジン：アリアンロケットを支えた信頼のエンジン

バイキングエンジンは、フランスのSEDP（現スネクマ）が開発した液体燃料ロケットエンジンです。元々はヨーロッパIIIロケットの1段目に使用される予定でしたが、計画変更によりアリアンロケットシリーズへと引き継がれ、その1段目および2段目を担うことになりました。その後、アリアン2、3、4にも採用され、長年にわたりヨーロッパの宇宙開発を支え続けました。さらに、インドではヴィカースという名称でライセンス生産され、PSLV、GSLV、GSLV-IIIといったロケットにも搭載されています。

概要

1973年に開発された初期のバイキングエンジンの推力は約390kNでした。アリアン4の第1段では、このエンジンが4基束ねて使用され、各エンジンの推力は667kNにまで向上しました。第2段では1基のバイキングエンジンが使用されています。

バイキングエンジンは、2004年2月15日のフライト157まで使用され続けました。25年以上の長きにわたり、1000基以上が生産され、数多くの打ち上げ成功に貢献。特に、アリアン4においては、最後の74回の連続打ち上げ成功という記録を打ち立て、9年間連続で打ち上げを成功させるという偉業を達成しました。この実績は、バイキングエンジンの極めて高い信頼性を証明するものです。

技術

バイキングエンジンは、常温で貯蔵可能な自己着火性推進剤を使用する二液式のガス発生器サイクルを採用しています。当初、フランスは自力での開発を目指しましたが、液体燃料ロケットエンジンの開発経験が不足していたため、開発は難航しました。しかし、V2ロケットのエンジン開発に携わったカール‐ハインツ・ブリュンゲルを中心とするドイツ人技術者たちの協力を得て、開発に成功しました。

アリアン1では、酸化剤として四酸化二窒素、燃料として非対称ジメチルヒドラジンを使用していました。しかし、2回目の打ち上げで不安定燃焼が発生したため、燃料をUH 25に変更しました。アリアン1から4を通して、酸化剤は変更されていません。

ターボポンプを駆動するガス発生器では、毎秒約1kgの酸化剤と燃料を燃焼させ、3000℃の高温ガスを生成します。ガスタービンの破損を防ぐため、毎秒4リットルの水が噴射され、タービンの温度を600℃まで下げています。タービンは毎分1万回転で2500kWの出力を発生し、2基のターボポンプを駆動して、毎秒約275kgの酸化剤と燃料を燃焼室に送り込みます。燃焼室の温度は3000℃に達しますが、燃料を燃焼室内壁に沿って流すことで冷却層を形成し、壁面が直接火炎に触れないように冷却しています。ノズルは積極的な冷却機構を持たないため、高温で赤熱します。

運用

アリアン1では、4基のバイキング2エンジンが1段目に、真空中で作動する際に比推力が高くなるようにノズルの膨張比を高めた改良型のバイキング4エンジンが2段目に使用されました。

バイキング2Bエンジンは、アリアン2およびアリアン3で使用されました。アリアン4には、バイキング5Cエンジンが使用されています。バイキング4Bエンジンは、真空中で作動するように設計されており、アリアン2および3の第2段だけでなく、アリアン4の第2段にも搭載されました。バイキング6エンジンは、小型のノズルを持ち、アリアン4の打ち上げ時に使用する液体燃料ブースターに使用されました。原型であるバイキング2から4は、インドでヴィカースとしてライセンス生産され、PSLV、GSLV、GSLV-IIIに使用されています。

アリアン1からアリアン4までの累計144機で、計958基のバイキングエンジンが使用されました。そのうち、打ち上げ失敗の原因となったのはわずか2基のみでした。最初の失敗は燃焼室に亀裂が入ったことによるもので、2例目はパイプに布を置き忘れたという人為的なミスによるものでした。当初は、全てのエンジンは発射台に取り付ける前に事前に試験を行っていました。しかし、信頼性が高いため、1998年からは事前に試験をせずに使用することになりました。一部のエンジンは無作為に組み立てられ、その都度試験されました。これは稀な事例です。

外部リンク

* raketenspezialisten

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