PSLV

PSLV：インドの小型衛星打ち上げロケット

インド宇宙研究機関(ISRO)によって開発されたPSLV（極軌道打ち上げロケット）は、小型衛星の打ち上げを主な任務とする4段式の使い捨てロケットです。PSLVの登場以前は、太陽同期軌道(SSO)への商業打ち上げサービスはロシアが独占していましたが、PSLVは低コストで高信頼性の打ち上げサービスを提供することで、宇宙開発におけるインドの存在感を大きく高めました。

PSLVはSSOだけでなく、静止トランスファ軌道(GTO)への小型衛星投入能力も有しており、多様なミッションに対応できる汎用性の高さが特徴です。1回の打ち上げ費用は約1670万ドルと、比較的低コストであることも大きな利点となっています。

開発と改良

PSLVは、ケーララ州ティルヴァナンタプラムのVikram Sarabhai宇宙センター(VSSC)を中心に開発されました。液体燃料ロケットエンジンの開発は、同州の液体系推進システムセンター(LPSC)が担当するなど、ISROの各地の研究機関が協力して開発を進めました。固体燃料ロケットブースターはサティシュ・ダワン宇宙センター(SHAR)で製造され、打ち上げ場へと運ばれます。

最初の打ち上げは1993年9月20日に行われましたが、姿勢制御装置に問題が発生し、完全な成功とはなりませんでした。その後、ISROは問題点を克服し、1996年には3回目の試験打ち上げで完全成功を収めます。以降、PSLVは人工衛星の打ち上げにおいて主力ロケットとなり、低軌道への打ち上げを中心に多くの成功実績を積み重ねています。現在も、推力向上や軽量化など、継続的な改良が加えられています。

各段の詳細

PSLVは、固体燃料ロケットと液体燃料ロケットを組み合わせた4段構成となっています。各段の構成は以下の通りです。

ブースター (第1段周囲): ポリブタジエン系コンポジット推進薬(HTPB)を用いた固体燃料ロケットブースター6基（PSLV-CA型を除く）が、第1段ロケットの周囲に配置されています。ブースターは、地上と空中で点火され、ロケットの姿勢制御にも貢献しています。PSLV-XL型では、より大推力のPSOM XLブースターが用いられています。
第1段: 直径2.8m、長さ20mの巨大なHTPB固体燃料ロケットです。マルエージング鋼製のケースに、138トンの推進薬が充填され、最大推力は4910kNに達します。姿勢制御には、SITVC（二次噴射制御）とRCT（ロール制御スラスター）が使用されています。
第2段: ヴィカースと呼ばれる液体燃料ロケットで、欧州宇宙機関開発のバイキングエンジンのライセンス生産品です。非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素を推進剤として使用し、推力は800kNです。2軸ジンバル制御とHRCM（ホットガス姿勢制御モーター）により姿勢制御が行われます。
第3段: 固体燃料ロケットで、ケブラー繊維強化プラスチック製のケースに7～7.6トンの推進薬が充填されています。推力は最大340kNで、可動ノズルによる姿勢制御が行われます。ロール制御は第4段のRCS（姿勢制御システム）に依存しています。
第4段: 液体燃料ロケットで、モノメチルヒドラジンと一酸化窒素添加四酸化二窒素を推進剤として使用します。推力は最大7.4kNで、2軸ジンバル制御とRCSによる姿勢制御が行われます。

PSLVの種類

ISROは、様々な打ち上げニーズに対応するため、PSLVの複数バージョンを開発しています。現在運用されている主な型は以下の通りです。

PSLV-G (運用終了): 標準型。6本のブースターと4段のロケットで構成されています。
PSLV-CA (運用中): ブースターを搭載しない"コアのみ"のタイプ。標準型よりも打ち上げ能力は低くなります。
PSLV-XL (運用中): 標準型よりも長いブースターを搭載し、打ち上げ能力を向上させたタイプです。
PSLV-DL (運用中): PSLV-XLよりも少ない2本のブースターを搭載したタイプです。
PSLV-HP (開発中): 高性能版として開発が進められているタイプです。
* PSLV-3S (開発中): 3段式の小型ロケットです。

これらのPSLVファミリーは、ペイロード重量に応じて、低軌道に600kgから太陽同期軌道に1900kgまでの幅広い打ち上げ需要に対応可能です。

運用状況と今後の展望

PSLVは、これまで多くの衛星打ち上げに成功し、ISROの宇宙開発を支える重要な役割を担ってきました。今後も、改良が続けられ、より高性能で信頼性の高いロケットとして活躍していくことが期待されています。また、開発中のPSLV-HPやPSLV-3Sなど、新たなバリエーションの登場も期待されており、今後のインドの宇宙開発におけるPSLVの活躍に注目が集まっています。

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