アリアン5

アリアン5：ヨーロッパの宇宙輸送を担ったロケット

アリアン5は、欧州宇宙機関（ESA）とアリアンスペース社によって開発・運用された使い捨て型ロケットです。1996年から2023年の間に、静止トランスファ軌道や低軌道へ人工衛星を打ち上げる主要な手段として活躍しました。アリアン4の成功を受けて開発されましたが、その設計はアリアン1から4までの段階的な改良とは異なり、ほぼ全ての要素が新規に開発された点が特徴です。開発には10年の歳月と70億ユーロの費用が投じられました。

当初は再利用型の有人宇宙往還機エルメスを打ち上げるためのペイロード能力を持つロケットとして計画されましたが、エルメス計画がキャンセルされたため、無人人工衛星の打ち上げ、特に商用静止衛星の2機同時打ち上げに特化しました。

アリアン5の構成

アリアン5は、主に以下の要素で構成されています。

液体水素燃料主エンジン (EPC)

アリアン5の1段目であるH158（ECAモデルではH173）は、低温メインステージ（EPC）と呼ばれます。直径5.4m、高さ30.5mで、130トンの液体酸素と25トンの液体水素を搭載し、底部には115tf（1.130MN）の推力を持つヴァルカンエンジンが搭載されています。

固体燃料補助ロケット (EAP)

EPCの両脇には、一対の固体ロケットブースター（EAP）P238（ECAモデルではP241）が取り付けられています。それぞれ約227tの重量があり、約630tf（6.2MN）の推力を生み出します。使用後は通常海底に沈みますが、回収されることもあります。これらの技術は、フランスのM51 SLBMにも応用されています。

第2段

第1段の上部には第2段があります。アリアン5 ECAは、液体水素と液体酸素を推進剤とするHM7Bエンジンを搭載したESCステージを使用します。一方、アリアン5 Gは、モノメチルヒドラジンと四酸化二窒素を推進剤とするエスタスエンジンを用いたEPSステージを採用しています。EPSステージは、2回の再着火能力を有しており、ペイロードの軌道投入において柔軟性を提供します。

フェアリング

第2段の上には、人工衛星やISSへの貨物などのペイロードが搭載され、打ち上げ時にはフェアリングで覆われます。フェアリングは、空気抵抗の無い十分な高度に達すると分離されます。複数の衛星を同時に打ち上げる際には、スペクトラやシルダといったモジュールを使用します。

アリアン5のバリエーション

アリアン5には、以下のようなバリエーションが存在します。

アリアン5G: 最初に登場したモデルで、静止トランスファ軌道に5970kgのペイロードを輸送できました。
アリアン5G+: ペイロード容量が6950kgに向上しました。
アリアン5GS: ECAと同じ固体ブースターを搭載し、静止トランスファ軌道に6100kgのペイロードを輸送できました。
アリアン5ECA: 静止トランスファ軌道に10000kg（2機同時打ち上げ時）または10500kg（単一ペイロード）のペイロードを輸送可能で、ヴァルカン2エンジンとHM7Bエンジンを使用しています。
アリアン5ES-ATV: ATV（欧州補給機）の打ち上げに特化したモデルで、低軌道に21000kgのペイロードを輸送可能です。

アリアン5ME（Midlife Evolution）

計画ではアリアン5 ECBとして、静止トランスファ軌道に12000kgのペイロードを輸送する能力を持つ予定でしたが、予算削減のため計画は棚上げされました。その後、アリアン5MEとして再設計され、2018年から2019年にかけての初打ち上げが計画されましたが、アリアン6の開発に集中するために中止されました。

アリアン5の打ち上げ履歴

アリアン5の初飛行は1996年6月4日でしたが、コンピュータプログラムの不具合により打ち上げ37秒後に爆発するという失敗に終わりました。これは、64ビットの浮動小数点数を16ビット整数に変換する際に発生したエラーによるものでした。

アリアン5の成功回数

アリアン5は、その後の多くの打ち上げで成功を収め、ヨーロッパの宇宙開発において重要な役割を果たしました。

関連事項

欧州宇宙機関 (ESA)
アリアンロケットシリーズ (アリアン4など)

外部リンク

ESA - Ariane 5
Arianespace - Ariane 5
JAXA宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター - アリアン5ロケット

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