バイト (雑誌)

BYTE誌：マイクロコンピュータ技術を牽引した伝説的雑誌

1970年代後半から1980年代末にかけて、マイクロコンピュータの世界に多大な影響を与えた雑誌『BYTE』誌。本稿では、その歴史、創刊秘話、そしてデジタル時代における変遷を詳細に解説します。

創刊と初期の歩み

『BYTE』誌は1975年、個人向けコンピュータが電子機器雑誌の広告として登場した直後に創刊されました。月刊誌として、年間購読料はわずか10ドルという低価格で、アマチュア無線雑誌『73』の編集者ウェイン・グリーン氏らによって創刊されました。当初は小さな出版社Green Publishingが発行し、ニューハンプシャー州ピーターバラ周辺の個人や企業に多くの制作を委託していました。

創刊号には、マイクロプロセッサの比較記事や、アセンブラの自作に関する記事、シリアルインターフェースに関する記事など、技術的な内容が豊富に掲載されました。広告も、当時注目を集めていたコンピュータ関連企業から多数掲載され、雑誌の成功を予感させました。

初期の『BYTE』誌の特徴は、電子機器やソフトウェアのDIY的な記事の多さです。Steve Ciarcia氏による連載「Ciarcia's Circuit Cellar」は、コンピュータを改造・拡張する小さなプロジェクトを紹介し、後の組み込みシステム専門誌へと発展しました。また、音響テープへのデータ記録方式であるカンサスシティスタンダードやS-100バスへのディスクドライブ接続に関する記事、さらにはTiny C、BASIC、アセンブラといったプログラミング言語処理系のソースコードも掲載されました。当時まだ「Micro-Soft」と呼ばれていたマイクロソフト社からも、Intel 8080向けBASICインタプリタの広告が掲載されており、後の巨大企業の黎明期を垣間見ることができます。

他にも、コンピュータサイエンスに属する記事や特集も掲載され、1981年8月号のSmalltalk特集は、そのカラフルな表紙と共に多くの読者の記憶に残っています。創刊当初は編集者間の確執や訴訟問題などもありましたが、雑誌の内容の充実によって乗り越えられました。

成長と変化：専門誌への転換

1979年には、Green Publishingから大手出版社マグロウヒルへと売却され、より大きな組織のもとで発展を続けました。1981年のIBM PC登場を機に、編集方針に変化が見られました。DIY的な記事は徐々に減少し、製品レビューが増加しました。扱う範囲は依然として広く、ホビーパソコンから、個人購入可能なあらゆるコンピュータやソフトウェアを網羅していました。しかし、記事の傾向は「何かを作る方法」から「製品の機能や仕組み」へとシフトしていきました。

1985年にはオンラインサービス「BIX (Byte Information Exchange)」を開始。テキストベースの電子掲示板サイトで、ダイヤルアップ接続やX.25ネットワークを利用してアクセスできました。月額利用料は13ドルと、当時としては高価格でしたが、多くの読者にとって重要な情報源となりました。

その後も『BYTE』誌は成長を続け、1990年には分厚い月刊誌へと進化しました。読者層も、アマチュアからプロの技術者へと変化していきました。しかし、インターネットの普及により、印刷媒体の発行部数や広告収入が減少。1998年にはマグロウヒルからCMP Mediaに売却され、1998年6月号をもって休刊となりました。

印刷物からオンラインへ、そして再び

休刊後も、ドイツや日本では姉妹誌の出版が継続されましたが、日本版『日経バイト』は2006年に休刊。多くのコラムニストは個人ウェブサイトに移行し、執筆を続けました。1999年にはCMP Mediaがウェブサイトとして『BYTE』誌を復活させましたが、2009年に閉鎖されました。

2011年にはUBM TechWebが『BYTE』誌の名称を復活させ、BYTE.comを再始動させましたが、2013年には再び閉鎖されました。このように、『BYTE』誌は時代の変遷とともに、紙媒体からオンラインへと移行し、幾度かの復活と閉鎖を繰り返しました。しかし、その歴史はマイクロコンピュータ技術の発展に大きな影響を与えたことは間違いなく、多くの技術者や愛好家の記憶に深く刻まれています。

もう一度検索