アンコール・ワット

アンコール・ワットの概要

アンコール・ワット（クメール語: អង្គុរ វត្ត）はカンボジア北西部に位置する、ユネスコの世界遺産として知られるアンコール遺跡に含まれる、最も象徴的で壮大な寺院です。その名は「国都の寺院」を意味し、元々はヒンドゥー教の神、ヴィシュヌを祀るために建設されましたが、後に仏教寺院に改修され、現在でも多くの信者が訪れます。美しい彫刻や独特な建築様式は、クメール建築の傑作として評価されており、カンボジア国旗にも描かれています。

歴史

建造から18世紀まで

アンコール・ワットは9世紀初頭に成立したクメール帝国の中心地、アンコールに169年かけて建設されました。スーリヤヴァルマン2世によって、ヒンドゥー教の寺院として設計され、ヴィシュヌに捧げられました。建設は長期にわたり、その間にさまざまな改修が施されました。13世紀半ばには、ジャヤーヴァルマン8世の時代に改修が行われ、道が新設されましたが、寺院自体は未完成の部分も残されています。その後、1431年に王都が他の場所に移転し、一時期は忘れ去られてしまいましたが、16世紀に再発見され、仏教寺院として改修されました。

1586年には、ポルトガルのアントニオ・ダ・マダレーナが西洋の観光客として初めて記録を残し、その後日本人による訪問も増えました。特に、1632年に訪れた日本人の森本一房による墨書は、アンコール・ワットの歴史を知る重要な手がかりとされています。

19世紀以降

19世紀に入ると、最初に訪問した西洋人はフランスのシャルル・ブイユヴォーで、その後1860年にはアンリ・ムーオが訪れ、彼の記録が西洋でのアンコール・ワットの認識を広めることになりました。1907年には、アンコールがフランス領土となり、フランスによる大規模な保護と修復が始まりました。

その後、1953年にカンボジアが独立すると、アンコール・ワットはカンボジアの国家アイデンティティの象徴的存在となりました。しかし、1970年代の内戦では大きな損害を受け、多くの文化財が失われました。内戦が終結した後、1992年には世界遺産に登録され、再び注目を集めました。現在では、各国からの修復チームによってその保護が進められ、安定したカンボジア社会の中で多くの観光客が訪れています。

建築と伽藍

アンコール・ワットの建造は主に砂岩とラテライトで行われており、寺院は外周における深い堀で囲まれています。寺院の入場口は西側に位置し、参道は540メートルも続き、石が敷き詰められた通路が環濠を渡っています。内部に入ると、数多くの美麗な彫刻を見ることができます。

寺院内部は三重の回廊で囲まれ、各回廊には荘厳な彫刻や仏像が祭られています。特に第一回廊にはインドの叙事詩が題材とされた彫刻が施されており、スーリヤヴァルマン2世の姿が描かれているとの言われもあります。また、第二回廊と第三回廊もそれぞれ独自の美しさを持っていますが、第三回廊には高い石段が設けられており登ることが難しいため、見上げるだけの見物客も多いです。

観光と現代文化

アンコール・ワットはカンボジアにおける最大の観光地であり、毎年多くの観光客が訪れます。特に近年の観光客の急増は著しく、2012年には年間200万人以上が訪れる人気スポットとなりました。しかし、観光客数の増加に伴う遺跡破壊や環境への影響が懸念されています。ナショナリズムとの結びつきも強く、国旗や芸術作品にしばしば登場し、また内戦期にはその存在が世間の注目を集めました。

語り継がれる文化遺産として、今日でも多くの人々に参拝と観光の場を提供しているアンコール・ワットは、カンボジアのアイデンティティの重要な部分を形成する存在として、これからもその魅力を持ち続けることでしょう。

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