啓定

啓定：ベトナム阮朝の変革期

啓定（けいてい）は、ベトナム阮朝の啓定帝の治世に使用された元号で、1916年から1925年までの期間を指します。この時代は、フランスの植民地支配下における社会変革と民族運動の高まりが特徴的です。

元号の成立

1916年、維新帝がフランスの支配に抵抗して皇宮を脱出したことを受け、フランス植民地政府は新たな皇帝を擁立することにしました。同年5月18日（旧暦4月17日）、啓定帝が太和殿で即位し、これに伴い元号が「啓定」に改められました。

啓定時代の出来事

啓定時代は、インドシナ総督アルベール・サローの協同主義政策のもとで、ベトナムの知識人層が成長した時期です。1917年から1919年にかけて、現地人官僚の採用、科挙の廃止（1919年）、フランス語とクオック・グー教育の推進などの教育改革が行われました。これらの改革は、新たな知識人層を生み出し、彼らが中心となって政党設立の動きが活発化しました。1923年には立憲党が結成されましたが、後任の総督たちは弾圧政策に転じ、教育や思想に対する厳しい制限・検閲を実施しました。

この弾圧政策は、親仏派の政党の衰退を招き、代わりに反仏運動が活発化しました。1925年にはホー・チ・ミンが広東でベトナム青年革命同志会を結成し、1924年にはインドシナ総督マルシャル・メルラン暗殺未遂事件も発生しました。植民地当局は、1925年にファン・ボイ・チャウを逮捕するなど、反仏運動に対する弾圧を強化しましたが、反仏運動は次の保大帝の時代まで続くこととなりました。

元号の由来

元号「啓定」は、旧暦4月15日に内閣が提出した元号案の一つ「啓衷」を基に、啓定帝自身が「衷」を「定」に変更したものです。内閣は、「啓定」を「安寧と平和の始まり」と解釈し、その典拠として『詩経』の「大啓爾宇、克定厥家」や『周書』の「霊命重啓、蕩定有期」を挙げています。

啓定の時代

啓定の時代は、ベトナムが植民地支配からの脱却を目指す動きが表面化した時期であり、社会の変動と民族意識の高まりが顕著に表れた時代と言えるでしょう。この時期に形成された知識人層は、後のベトナム独立運動において重要な役割を果たすことになります。

参考資料

粕谷裕子『アジアの脱植民地化と体制変動：民主制と独裁の歴史的起源』白水社、2022年。
古田元夫『増補新装版 ベトナムの世界史：中華世界から東南アジア世界へ』東京大学出版会、2015年。

関連項目

* 元号一覧 (ベトナム)

もう一度検索