バスフルート

バスフルートは木管楽器の一つで、フルート族に分類されます。一般的なコンサート・フルートと比較して、ちょうど１オクターブ低い音域を持つのが最大の特徴です。オーケストラで単独で用いられることは少なく、主にフルートのみで編成されるアンサンブルやフルートオーケストラにおいて、低音域を支える重要な役割を担います。その独特の深い響きは、アンサンブルに豊かな色彩と厚みをもたらします。しかし、他のフルート属の楽器に比べて演奏機会は限られており、あまり広く普及している楽器とは言えません。

構造と音域

バスフルートの基本的な構造は、リコーダーなどのように管の先端から息を吹き込むエンドブロウン方式ではなく、コンサート・フルートと同様に管の側面に開けられた歌口に息を吹き付けて発音する、横吹き（サイドブロウン）方式を採用しています。ただし、フルート本来の音域より１オクターブ低い音を出すためには、その管長を約２倍にする必要があり、標準的なバスフルートは約130センチメートルにもなります。これに伴い、楽器全体の重量も増し、通常のフルートの約４倍にあたる1.2キログラム程度になるのが一般的です。

管が非常に長いため、そのままでは構えにくく、特に頭部管はＵ字形に曲げられているものが大半です。これにより、楽器本体を奏者側に近づけることができ、演奏姿勢を取りやすくしています。

バスフルートの音域は、実音で中央ハ（C4）の１オクターブ下のC3から、その２オクターブ上のC6までを基本とします。楽譜に記される際は、読みやすさや他のフルートとの運指の共通性を考慮して、実際の音よりも１オクターブ高く記譜される移調楽器です。このため、コンサート・フルートと同じ運指でバスフルートの音を出すことができます。

演奏時の特徴

楽器を横に構えて演奏するスタイルはコンサート・フルートと共通ですが、そのサイズと重量ゆえに、演奏時の負担が課題となることがあります。特に、立って演奏する場合や長時間の演奏では、楽器を支えるのに力が必要です。この問題を軽減するため、座って演奏する際には、楽器に専用の支持棒を取り付けて床で支える方法がしばしば用いられます。

なお、一部の楽器メーカーでは、古楽器の構造に倣うなどして、縦に立てて演奏するタイプのバスフルートも製造されていますが、横吹きで演奏するモデルが圧倒的に主流です。

歴史的背景

フルートよりも１オクターブ低い音域を持つ楽器の試みは、古くから存在しました。しかし、それらは実験的な楽器や特定の用途に限られることが多く、広く定着するには至りませんでした。ある程度の実用化と成功を収めた例として、1910年にイタリア・ミラノのアベラルド・アルビシによって発明された「アルビシフォーン」が挙げられます。この楽器は縦に構えて演奏するスタイルで、実音でB2から約２オクターブ半の音域を持っていました。

アルビシはスカラ座の首席フルート奏者でもあり、当時のイタリアオペラにおいて、このアルビシフォーンが実際に使用されました。リッカルド・ザンドナーイのオペラ『メレニス』（1912年）や『フランチェスカ・ダ・リミニ』（1914年）、ピエトロ・マスカーニのオペラ『パリジナ』（1913年）などでその響きを聞くことができます。

現代のバスフルートは、その後、特にイギリスを中心に楽器製造技術の進歩と共に改良が重ねられ、現在の形に発展しました。

より低い音域の同属楽器

バスフルート（C管）よりもさらに低い音域を持つフルート属の楽器も少数ながら製造されており、これらも非常に珍しい楽器とされています。

F管バスフルート: C管バスフルートよりも完全５度低い音が出ます。その形状はC管バスフルートとは異なり、次に述べるコントラバスフルートに近い外見を持ちます。
G管コントラアルトフルート: アルトフルートの１オクターブ下の音域を持ち、その音高はF管バスフルートとほぼ同じです。
* コントラバスフルート: バスフルートよりもさらに１オクターブ低い、極めて低い音域を担当します。楽器の管が大きく折り曲げられており、特に頭部管付近は「４」の字のような特徴的な形状をしています。主に縦に立てて演奏され、大規模なフルートオーケストラなどで低音の基盤を支えます。

これらの他にも、コントラバスフルートよりさらに低い音域を持つサブコントラバスフルート、ダブルコントラバスフルート、ハイパーバスフルートなどが存在しますが、これらは文字通り「きわめて」珍しく、目にする機会はほとんどありません。

楽譜上の注意点

古い時代の作曲家による楽譜、例えばグスターヴ・ホルストが作曲した組曲『惑星』などで「バスフルート」と指示されている場合、これは現代のバスフルートを指しているのではなく、アルトフルートを意味することがあります。演奏にあたっては、作曲された年代や作品が書かれた背景などを考慮し、使用される楽器について確認が必要です。

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