バッテンマスク

日本のテレビバラエティ史において、特定の番組を象徴するアイテムは数多く存在しますが、「バッテンマスク」もその一つです。このマスクは、主にフジテレビ系列でかつて放送されていた人気音楽クイズ番組「クイズ・ドレミファドン!」および前身番組「クイズ!家族ドレミファ大賞」の中で生まれました。番組の解答者が誤答した際に着用が義務付けられたもので、その独特のビジュアルは視聴者に強いインパクトを与え、番組の名物となりました。地域によっては「バツマスク」とも呼ばれ、関西地方では「ペケマスク」という愛称で親しまれました。「ペケ」という言葉が関西弁で「駄目」や「間違い」を意味し、「×」印を表すことから、この名前が定着しました。

外見と構造

バッテンマスクの基本的な構造は、一般的な大人用ガーゼマスクをベースとしています。最大の特徴は、マスクの前面に大きく施された赤いバツ印です。「ドレミファドン」で使用されていたものは、プラスチック製の立体的なバツ印が多い印象ですが、中には赤いビニールテープで簡単にバツ印が表現されたものもありました。いずれのタイプも、バツ印がマスクの大部分を占めるほど大きくデザインされていたのが特徴です。

他のテレビ番組で使用されたバッテンマスクでは、赤いビニールテープでバツ印を表す点は共通していますが、そのサイズは小さめにデザインされているケースが多く見られました。例えば、「クイズ!年の差なんて」に登場したバッテンマスクは、本家「ドレミファドン」のものと比べてバツ印が小ぶりでした。

大人用マスクを土台としているため、「ドレミファドン」に出演した小学生の解答者が着用すると、顔全体をすっぽりと覆ってしまうような見た目になりました。

クイズ番組における役割と歴史

「ドレミファドン」において、バッテンマスクの着用は、誤答した解答者に対する軽い罰則的な意味合いとともに、バラエティ的な演出として機能しました。マスクを着けて解答席の後ろで待機する姿は、一種の「晒し者」のように見え、中には着用を露骨に嫌がったり、拒絶反応を示したりする解答者もいたと言われています。しかし、この演出が番組の人気を高める一因ともなりました。

バッテンマスクは「ドレミファドン」以外にも広がりを見せました。同系列の特別番組「FNS番組対抗!なるほど!ザ・春秋の祭典スペシャル」をはじめ、日本テレビ系の「マジカル頭脳パワー!!」や「全国高等学校クイズ選手権」、テレビ東京系の「TVチャンピオン」など、様々な局のクイズ・バラエティ番組で使用されるようになります。また、「クイズ!年の差なんて」や「笑っていいとも!」のクイズコーナーでも登場しました。

しかし、2000年に「ドレミファドン」の新春特番でバッテンマスクの使用が中止されたことを境に、テレビ番組でこのマスクを見かける機会は大幅に減少しました。長らく表舞台から遠ざかっていましたが、2013年に再び注目を浴びます。「クイズプレゼンバラエティー Qさま!!」の「早抜けプレッシャーSTUDY」というコーナーで、誤答時ではなく、チームメイトの発言がヒントになるのを防ぐため、チーム全員が回答中にバッテンマスクを着用するという、全く新しい使われ方で復活を果たしました。

「ドレミファドン」における最後のバッテンマスク装着者としては、1999年の新春特番に出演したお笑いトリオのネプチューン、女優の菅野美穂、俳優の三田村邦彦の3組が挙げられます。

マスクを着用した著名人

「クイズ・ドレミファドン!」を中心に、多くの著名人がバッテンマスクを着用した姿が記録されています。榊原郁恵、ビートたけし、松田聖子、郷ひろみ、近藤真彦、小泉今日子、中山美穂、工藤静香、森口博子、とんねるず、酒井法子、田代まさし、タモリ、木村拓哉、江角マキコなど、昭和から平成にかけて各分野で活躍した数えきれないほどのスターたちが、このマスクを着けて番組を盛り上げました。一方で、中森明菜や藤原紀香のように、着用を辞退または拒否したとされる例も知られています。

配布を担当した人々

「クイズ・ドレミファドン!」において、解答者が誤答した際にバッテンマスクを手渡す役割を担っていたのは、番組アシスタントを務める女性たち、通称「アシスタントガール」でした。番組初期には解答席の傍らに待機していましたが、後期にはセットの裏から登場する演出に変更されました。レギュラー放送時は多くのマスクを手に持ち会場を動き回る姿が見られましたが、レギュラー放送終了後の特番では、マスクを両手に1枚ずつ持ち、解答席の近くで待機するというスタイルに変化しました。新春特番の際には、晴れ着姿でマスクを配るという華やかな一面もありました。アイドルグループ「フィーバー」のメンバーだった岡広いづみさんや北川まゆみさんなどがアシスタントガールを務めた経験があります。

テレビ以外の登場例

バッテンマスクはテレビ番組だけでなく、他のメディアにもその姿を見せています。アーケードゲームとして稼働している人気のオンライン対戦クイズゲーム「クイズマジックアカデミー」シリーズでは、プレイヤーキャラクターのカスタマイズ用アイテムとしてバッテンマスクが用意されており、「クイズに挑む者の伝統的な一品」として紹介されています。また、同じくクイズゲーム「ネットワーク対戦クイズ Answer×Answer2」や、沖縄県石垣島出身の音楽ユニット「きいやま商店」のCDジャケットにも登場するなど、多方面でアイコンとして認識されています。

誤答を罰するシンボルでありながら、どこかユーモラスで記憶に残るバッテンマスクは、日本のテレビクイズ文化が生んだユニークな産物と言えるでしょう。その歴史は、時代の変化やメディアを超え、今も様々な形で語り継がれています。

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