バラの聖母 (ラファエロ)

ラファエロの『聖家族と幼児の洗礼者聖ヨハネ』

ラファエロ・サンツィオによる『聖家族と幼児の洗礼者聖ヨハネ』は、1517年頃に制作された盛期ルネサンスの貴重な油彩画です。この作品は、聖家族を題材としており、画面の下部にはバラの花が描かれています。このため、作品は『バラの聖母』としても知られています。画作の背景には、祭壇画としての役割があったと考えられていますが、具体的な制作経緯や発注者に関しては詳細不明とされています。現在、この名作はマドリードにあるプラド美術館で展示されています。

作品の特徴と構成

絵画には、幼児の洗礼者聖ヨハネとともに聖母マリア及び聖ヨセフ、そして幼児イエス・キリストが描かれています。聖母マリアは、幼いイエスを抱きしめながら、洗礼者聖ヨハネに向けてメランコリックな眼差しを向けています。この姿勢は彼女が洗礼者聖ヨハネからイエスを遠ざけようとしているかのように見え、二人の幼児の未来に潜む苦難を暗示しているかのようです。

聖ヨハネは、ラテン語で「神の仔羊」と書かれた紙を持ち、右手をイエスに向けて伸ばしています。一方、イエスもまたその紙をしっかりと掴んでおり、その親密な交わりは二人の間に特別な結びつきがあることを示しています。また、イエスは左足を箱の上に乗せ、その近くには美しいバラが描かれており、作品のタイトルの由来にもなっています。

ラファエロはこの作品において、以前のフィレンツェ時代のスタイルを部分的に復活させながらも、色彩や光の扱いについては他の作品と同様の特徴を持つことを見せています。このように、レオナルド・ダ・ヴィンチやフラ・バルトロメオからの影響が表れています。結果として、画面は非常に安定した構成と簡潔なポーズで表現されています。色彩も限定的ではありますが、ラファエロの技法により十分に豊かな表現がなされています。青い色調はピンクの層の上に重ねられ、肌の色合いは非常に慎重に描かれています。このように、陰影の使い方や髪の表現には高い透明感があり、すばらしい技巧を感じさせます。

制作と技術的な背景

元々パネル上に描かれたこの作品は、19世紀前半にキャンバスに変更されたと考えられています。この時に、元のサイズ（96.8 x 81.0cm）よりも拡大され、下部に新たにスペースが追加された可能性があるため、バラの絵も特徴として加えられたようです。現在では元の支持体の記録は存在せず、表面の摩耗も見られるため、正確な制作年を判定するのは難しいとされていますが、1517年頃の作品であると広く認識されています。また、ラファエロの名作としての評価の信憑性は高いものの、彼の晩年の作品に見られるように、助手の関与の可能性も考えられています。

来歴と影響

本作品の制作経緯にはいくつかの謎が残っています。最初の所有者に関する記録は17世紀のアムステルダムに遡ります。1642年、ヴェンツェスラウス・ホラーが第21代アランデル伯爵トーマス・ハワードが所有していたこの作品を基にエングレービングを制作した記録もあります。また、1589年にスペインのバリャドリッドで活動していたフィレンツェの画家ベネディット・ラブヤテの遺言には、この作品の複製が複数存在したことが記されています。さらに、確実な記録としては1657年にエル・エスコリアル修道院に本作品が存在していたことが伝えられています。

複製作品として、ラファエロの影響を受けたジュリオ・ロマーノ作の作品や、ダニエレ・ダ・ヴォルテッラに帰属する作品も存在します。これらの複製は、『聖家族と幼児の洗礼者聖ヨハネ』の影響力を物語っています。

外部リンク

• - プラド美術館公式サイト - ラファエロ・サンツィオ『聖家族と幼児の洗礼者聖ヨハネ』または『バラの聖母』

この名作は今日でも評価が高く、多くの美術愛好者に親しまれています。

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