バルト連合公国

バルト連合公国は、第一次世界大戦末期の混乱期に、現在のエストニアとラトビアの地域に存在した短命な国家構想です。ドイツ語では「Vereinigtes Baltisches Herzogtum」、エストニア語では「Balti Hertsogiriik」、ラトビア語では「Apvienotā Baltijas hercogiste」と表記されます。この国家は、ロシア革命後の混乱に乗じて、ドイツ帝国が占領した旧ロシア帝国のバルト地域に、バルト・ドイツ人貴族と亡命ロシア貴族によって計画されました。

歴史的背景

第一次世界大戦中、1915年秋にドイツ帝国軍はロシア帝国領のクールラント県を占領しました。その後、ロシアで二月革命が起こると、エストニアでは1917年4月12日にエストニア自治県が成立し、十月革命後には1917年11月28日に独立を宣言。一方ラトビアでも、1917年11月30日にラトビア自治区が宣言され、1918年1月15日にラトビア共和国として独立を宣言しました。

1918年2月末までにドイツ軍は旧ロシア帝国のリヴォニア県を軍政下に置くと、エストニア自治県は独立を宣言。ブレスト＝リトフスク条約でボリシェヴィキ・ロシアはクールラント県を放棄、さらにエストニア自治県とリヴォニア県も放棄することになりました。

バルト連合公国の試み

ドイツ軍占領下で、バルト・ドイツ人は地方議会を組織し、1918年4月12日にはドイツ皇帝にバルト海の地域を君主制国家として認め、ドイツの保護国とすることを求めました。地域委員会は、クールラント公国とバルト国の独立を宣言し、プロイセン王国とのつながりを模索しましたが、ドイツ政府はこれを承認しませんでした。

1918年11月5日には、アドルフ・ピラル・フォン・ピルヒャウ男爵を臨時摂政議会の長とし、首都をリガとする新国家が設立されました。この国家は、クールラント、リガ、レトガレン、南リーフラント、北リーフラント、エーゼル、エストラントの7つの州からなる連合国家でした。初代元首にはメクレンブルク＝シュヴェリーン公爵アドルフ・フリードリヒが選出されましたが、実際には就任しませんでした。摂政議会は1918年11月28日まで機能しましたが、ドイツ以外には国際的に承認されませんでした。

エストニアとラトビアの独立

1918年10月、ドイツ帝国宰相マクシミリアン・フォン・バーデンはバルト諸国に対する軍政を解き、市民に戻すべきと提案しましたが、軍政部はこれを認めませんでした。1918年11月18日にはラトビアが、翌日にはエストニアがドイツからの独立を宣言。ドイツは1918年12月7日にラトビア政府に主権を譲渡しましたが、軍政部のゴルツ将軍は占領を続けました。

バルト連合公国の軍隊として編成されたバルト防衛軍は、バルト・ドイツ人地主の支援を受けたアルフレート・フレッチャー少佐が指揮を執り、ラトビア人要員を解散させ、ドイツ人を配置しました。しかし、連合国の圧力や、エストニア、ラトビアの独立運動が活発化し、1919年6月19日から23日にかけて行われたツェーシスの戦いでバルト防衛軍は敗北しました。これによりバルト連合公国の構想は放棄されました。

その後

バルト地域のドイツ軍はイギリス軍の権限下に置かれ、1919年7月中旬にはバルト・ドイツ軍は解体されました。エストニアとラトビアは独立を維持し、バルト連合公国の構想は二度と実現することはありませんでした。

この短命な国家構想は、第一次世界大戦後のバルト地域の複雑な政治状況を反映しており、ドイツ帝国、バルト・ドイツ人、そしてバルト諸国の独立運動という多方面の思惑が絡み合った結果、歴史の表舞台から消えていきました。

もう一度検索