バルドル

バルドル：北欧神話における光と死の象徴

北欧神話において、バルドルは光の神として知られています。類まれな美貌と知性、そして穏やかな性格で神々や人々から愛された彼は、一方で、運命に翻弄される悲劇的な存在でもありました。本稿では、複数の史料に基づき、バルドルの生涯と死、そして神話における彼の役割を詳細に考察します。

バルドルの誕生と生涯

最高神オーディンと女神フリッグを両親に持つバルドルは、『スノッリのエッダ』によれば、賢明で美しく、雄弁で優しい性格と描写されています。彼の裁きは揺るぎないものとして知られていましたが、やや優柔不断な一面もあったとされています。妻はネプの娘ナンナであり、二人の間にはフォルセティという息子がいました。バルドルはブレイザブリクという館に住み、フリングホルニという船を所有していました。

『古エッダ』の詩『バルドルの夢』では、バルドルの不吉な夢を心配したオーディンが、死んだ巫女に彼の運命を尋ねる場面が描かれています。この詩は、バルドルがヘズに殺されること、そして復讐を果たすのがヴァーリであることを予言するものです。

ロキの陰謀とバルドルの死

『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』では、バルドルの死に至る経緯がより詳細に語られています。神々の中で最も愛されたバルドルは、ある日悪夢を見るようになり、心配した母フリッグは世界中のあらゆる生き物や物に、彼を傷つけないよう誓わせました。そのため、いかなる武器もバルドルを傷つけることができなくなりました。

しかし、この時、まだ幼かったヤドリギだけが誓約から漏れていました。ロキはこのことを知り、盲目の神ヘズをそそのかし、ヤドリギの枝をバルドルに投げつけさせました。その結果、バルドルは命を落とします。

バルドルの死を嘆いたフリッグは、息子のヘルモーズを死の国ヘルヘイムに遣わし、バルドルの復活をヘルに懇願しました。ヘルは「全世界の人々がバルドルのために泣くならば、生き返らせてやろう」と約束します。フリッグの頼みに応じ、世界中の生き物や物がバルドルのために涙を流しました。しかし、巨人の女セック（ロキの変身）だけは泣かず、バルドルは復活することができませんでした。このためロキは神々に捕らえられ、罰せられることになります。

バルドルの復活とラグナロク

バルドルの死は世界に光を失わせ、ラグナロクという世界の終末をもたらしました。『ギュルヴィたぶらかし』と『古エッダ』の『巫女の予言』によれば、多くの神々が滅び、世界は終焉を迎えます。しかし、やがて新しい世界が生まれると、バルドルはヘズと共に復活するとされています。この復活は、キリスト教の影響を受けた可能性も指摘されています。

異なる視点からのバルドル像

山室静によれば、サガなどではバルドルは戦士として描かれ、神として崇拝されていた形跡はないとされています。一方、『デンマーク人の事績』では、バルドルは勇猛な半神戦士バルデルスとして登場し、どんな武器も通らない肉体を持つものの、特別な剣によって倒されるという描写が見られます。この記述は、『スノッリのエッダ』におけるバルドル像とは異なる側面を提示しています。

まとめ

バルドルは、北欧神話において光と死、そして復活を象徴する複雑な存在です。様々な史料から読み取れる彼の姿は、一面的ではなく、多様な解釈を許容する豊かさを備えています。彼の物語は、北欧神話の核心に触れる重要な要素であり、現代においても多くの関心を集め続けているのです。

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