バンケティング・ハウス

イングランドのテューダー朝と初期ステュアート朝において、宮殿や大邸宅には、本邸とは別に娯楽のための建物が建てられることがありました。それがバンケティングハウスです。バンケッティングハウス（Banqueting House）とは、晩餐会や舞踏会などの娯楽を目的とした、宮殿や大邸宅の離れのような建物です。

これらの建物は、本邸とは庭園などを隔てて離れた場所に位置し、寝室や厨房などは備えず、娯楽のための空間のみを贅沢に設けるのが特徴でした。華麗な装飾が施され、本邸とは異なる趣向が凝らされた建物が多かったのです。

歴史上最も有名なバンケティングハウスは、ロンドンのホワイトホール宮殿にあったバンケティングハウス（Banqueting House at Whitehall）です。単に「バンケティングハウス」と呼ぶと、多くの場合この建物を指します。

この建物は、17世紀初頭、建築家イニゴー・ジョーンズとその甥ジョン・ウェッブによって設計され、1619年から1622年にかけて建設されました。現在のホース・ガーズ・パレードの近くに位置し、当時ホワイトホール宮殿の西側にありました。

バンケティングハウスの内部は、二階建て吹き抜けの壮麗なホールが中心となっています。ホールの天井は、上階がコリント式、下階がイオニア式の柱で飾られ、その天井には、ピーテル・パウル・ルーベンスが描いた大規模な天井画が施されています。この天井画は、チャールズ1世の依頼によるもので、聖書の場面を描いた壮大な作品です。

ホールの形状は、正方形を二つ並べたような独特な形をしています。内装全体としては、ルネッサンス様式を取り入れつつ、ジャコビアン様式の特徴を強く反映した、当時のイングランドにおける建築の最高傑作の一つと言えるでしょう。

バンケティングハウスは、ホワイトホール宮殿の大規模な改修計画の一環として建てられました。しかし、計画の途中でイングランド内戦が勃発し、計画は中断。その後、1690年代に発生した大火災でホワイトホール宮殿の大部分は焼失しました。しかし、バンケティングハウスは本邸から離れて建てられていたため、奇跡的に焼失を免れ、現在も残っています。

興味深いことに、このバンケティングハウスは、1685年にイングランドで初めてクラウンガラス（板ガラスの一種）を窓ガラスとして使用した建築物としても知られています。

ホワイトホール宮殿のバンケティングハウスは、単なる娯楽施設としてだけでなく、重要な歴史的舞台としても知られています。1649年、チャールズ1世はこの建物の前で公開処刑されました。この事件は、バンケティングハウスの歴史に暗い影を落とすとともに、この建物の歴史的意義をさらに高めるものとなりました。現在でも、このバンケティングハウスは、当時の建築様式や歴史を知る上で重要な建造物として、多くの人々を魅了し続けています。

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