バンコマイシン耐性腸球菌

バンコマイシン耐性腸球菌（VRE）

バンコマイシン耐性腸球菌（VRE）は、多くの感染症治療に用いられる重要な抗生物質バンコマイシンが効かなくなった腸球菌の総称です。この薬剤耐性菌は、医療現場で問題視されており、感染した場合に治療が困難となることがあります。

腸球菌について

腸球菌は、人や動物の腸内に常在する細菌です。健康な人では通常、病原性を示しません。しかし、病気や治療で免疫力が低下した状態では、心内膜炎、敗血症、尿路感染症などの日和見感染を引き起こすことがあります。腸球菌は多くの抗生物質に元々耐性を持ち、免疫が弱った患者での感染は重症化しやすく、死亡率も高い傾向にあります。

VREの問題点

VREは、腸球菌がバンコマイシンに対しても耐性を獲得した状態です。人間に病原性を示すエンテロコッカス・フェカリスとエンテロコッカス・フェシウム（多剤耐性化しやすい）の両方からVREは出現します。
バンコマイシンは腸球菌感染症の主要な治療薬の一つですが、VREには効果が期待できません。このため、VRE感染症は通常の腸球菌感染症よりも治療が難しく、重篤化しやすいという問題があります。

VRE出現の背景

VREの出現と拡大には、過去に家畜飼料へバンコマイシンに類似した抗生物質アボパルシンが広く添加されていたことが深く関わると考えられています。家畜がアボパルシンを摂取することで、腸球菌が耐性を獲得し、この耐性菌が人間へ伝播しました。医療現場でバンコマイシンによる治療が行われる中で、VRE感染が顕在化したと推測されています。

日本の対策と治療

日本では、こうした経緯を踏まえ、家畜飼料へのアボパルシン添加が禁止されました。また、厚生労働省は食肉のVRE汚染調査を実施しています。
VRE感染症の治療薬として現在日本で承認されているのは、リネゾリドやキヌプリスチン・ダルホプリスチンといった抗生物質です。VREはバンコマイシンに加え、アンピシリン、ニューキノロン系、カルバペネム系など多くの抗生物質に耐性を示すことが多く、有効な治療選択肢が限られています。

まとめ

バンコマイシン耐性腸球菌（VRE）は、薬剤耐性菌問題の重要な一例です。免疫低下患者での重症化リスクが高いこと、そして家畜における抗生物質使用が関与した可能性が指摘されていることは、医療と畜産における抗生物質適正使用の重要性を示しています。VREの監視、予防、および新規治療法の開発は、薬剤耐性対策として引き続き不可欠です。

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