バーバラ・トンプソン

バーバラ・トンプソン（Barbara Thompson, MBE）

イングランド出身のバーバラ・トンプソン（1944年7月27日 - 2022年7月9日）は、ジャズ・サクソフォーン奏者として、そして作曲家として、英国音楽界に多大な足跡を残しました。彼女のキャリアはジャズ、ロック、クラシック、ミュージカル、映画・テレビ音楽といった多岐にわたる分野に及び、その類稀なる才能と情熱は多くの人々に影響を与えました。

音楽的ルーツとキャリアの確立

ロンドンの王立音楽大学で、サクソフォーン演奏とクラシック作曲の基礎を築いたトンプソンですが、やがてデューク・エリントンやジョン・コルトレーンといったジャズの巨匠たちの音楽に深く魅了され、その興味は次第にジャズへと傾倒していきました。この転換が、後の彼女の音楽人生を決定づけることとなります。

1967年には、後に夫となるドラマーのジョン・ハイズマンと出会い、結婚。彼との関係は公私にわたり、音楽的なパートナーシップとしても非常に重要でした。二人はニール・アードレイ率いるニュー・ジャズ・オーケストラで共に活動したほか、ハイズマンが率いるロック・バンド、コロシアムのアルバム『ドーター・オブ・タイム』（1971年）にもゲストとして参加するなど、様々なプロジェクトで共演しています。

自身のグループ活動

トンプソンはリーダーとしても精力的に活動しました。1974年には、ヨーロッパの著名なジャズ/ロックミュージシャンが集まるユナイテッド・ジャズ+ロック・アンサンブルの結成に初期から関わり、その中心メンバーとして活躍しました。また、自身が率いるグループ、バーバラ・トンプソンズ・ジュビアバや、ラテン・ジャズ・ロックの要素を取り入れた9人編成の大所帯バンド、バーバラ・トンプソンズ・パラファナリアを結成し、独自の音楽性を追求しました。これらのグループは、彼女のダイナミックな演奏と作曲能力を存分に発揮する場となりました。

作曲家としての広がり

演奏家としてだけでなく、作曲家としてもトンプソンの才能は多様な分野で花開きました。クラシック音楽、映画やテレビ番組のための楽曲、自身のミュージカル作品、そしてビッグバンドのための楽曲など、その創作活動はジャンルを問いませんでした。特に、ミュージカル界の巨匠アンドリュー・ロイド・ウェバーとは密接な関係を築き、世界的に有名なミュージカル『キャッツ』（1981年）や『スターライトエクスプレス』（1984年）、さらに彼のクラシック作品『レクィエム』（1985年）やクラシック・フュージョン・アルバム『ヴァリエイションズ』（1978年）などで重要な役割を担いました。また、人気テレビシリーズ『フロスト警部』（1992年放送開始）の印象的なテーマ音楽も彼女の手によるものです。ジェフ・ウェインの音楽劇『宇宙戦争』（1978年）ではフルート奏者として参加しています。

受勲と病との闘い

長年の音楽界への貢献が認められ、1996年には大英帝国勲章（MBE）が授与されました。しかし、その栄誉に浴した翌1997年、彼女はパーキンソン病という難病を宣告されます。この診断は、サクソフォーン奏者としてのキャリアに大きな影を落としました。2001年には「フェアウェル・ツアー」を行い、サクソフォーン演奏の第一線から一度は退きましたが、音楽への情熱は衰えることはありませんでした。その後は作曲家として活動を続けた後、2003年には再びステージへ復帰し、病と向き合いながらも演奏活動を継続しました。晩年も、2020年にはテレビドキュメンタリー番組に出演するなど、その存在感を示し続けました。

晩年と遺産

2022年、長年患ってきたパーキンソン病が悪化し、心臓の合併症を併発。同年7月9日、77年の生涯を閉じました。夫ジョン・ハイズマンも2018年に先立っており、最愛のパートナーの後を追う形となりました。バーバラ・トンプソンは、その卓越した演奏技術とジャンルを超えた作曲能力、そして病に屈しない強い精神力によって、多くのミュージシャンやリスナーに影響を与えました。彼女が残した膨大なディスコグラフィは、革新的で多様な音楽活動の証として、今なお輝き続けています。

主な主宰グループメンバー

バーバラ・トンプソンズ・ジュビアバ:
ピーター・レマー、ロイ・バビントン、ヘンリー・ロウサー、イアン・ハマー、デレク・ワズワース、トレヴァー・トムキンス、ビル・ル・セージ、グリン・トーマス 他

バーバラ・トンプソンズ・パラファナリア:
ピーター・レマー（ピアノ）、ビリー・トンプソン（ヴァイオリン）、デイヴ・ボール（ベース）、ジョン・ハイズマン（ドラム） 他

主なディスコグラフィ

ソロ及び連名アルバム:
『ゴースツ』 - Ghosts (with ロッド・アージェント, 1982)
Heavenly Bodies (1986)
Songs From The Center Of The Earth (1991)
Barbara Song (with The Medici Quartet, 1995)
Three Quartets (with アポロ・サキソフォーン・カルテット, 2006)
Mike Taylor Remembered (with ニール・アードレイ, イアン・カー, 他, 2007)
Live At The BBC (14枚組ボックスセット, 2020)

バーバラ・トンプソンズ・ジュビアバ:
『ジュビアバ』 - Barbara Thompson's Jubiaba (1978)

バーバラ・トンプソンズ・パラファナリア:
『バーバラ・トンプソン』 - Paraphernalia (1978)
Wilde Tales (1979)
Live In Concert (1980)
Mother Earth (1982)
Pure Fantasy (1984)
A Cry From The Heart (Live In London) (1988)
Breathless (1991)
Everlasting Flame (1993)
Lady Saxophone (1996)
Shifting Sands (1998)
Thompson's Tangos And Other Soft Dances (2000)
Never Say Goodbye (2007)
The Last Fandango (2015)
Bulletproof (with NYJO, 2020)

ユナイテッド・ジャズ+ロック・アンサンブル:
Live Im Schützenhaus (1977)
Teamwork (1978)
The Break Even Point (1979)
Live In Berlin (1981)
United Live Opus Sechs (1984)
Round Seven (1987)
Na Endlich! / Live In Concert (1992)
Live Die Neunte Von United (1996)
X (1999)

コロシアム:
『ドーター・オブ・タイム』 - Daughter of Time (1970) ※ゲスト参加
『コロシアム・ライヴ! 05』 - Live 05 (2007)
『タイム・オン・アワ・サイド』 - Time On Our Side (2014)

主な参加アルバム:
アンドリュー・ロイド・ウェバー: 『ヴァリエイションズ』 (1978)
アンドリュー・ロイド・ウェバー: 『キャッツ オリジナル・ロンドン・キャスト』 (1981)
アンドリュー・ロイド・ウェバー: 『レクィエム』 (1983)
ハワード・ライリー・トリオ: Angle (1968)
ジェフ・ウォルゲナント・アンド・フレンズ: Cool Cat (1983)
ジョン・ハイズマン: Ganz schoen heiss, Man! About Time Too! (1986)
ケイト・ウェストブルック & マイク・ウェストブルック: Cuff Clout (2001)
キーフ・ハートリー・バンド: 『リトル・ビッグ・バンド』 (1971)
キーフ・ハートリー・バンド: The Beginning – Vol. 6: Keef Hartley Band (1973)
マンフレッド・マン06・ウィズ・マンフレッド・マンズ・アース・バンド: 2006 (2004)
マンフレッド・マンズ・アース・バンド: 『静かなる叫び』 (1976)
マンフレッド・マンズ・アース・バンド: 『チャンス』 (1980)
マーティ・ウェッブ: 『テル・ミー・オン・ア・サンデー』 (1979)
マイケル・ギブス: 『マイケル・ギブスの壮挙』 (1970)
ニール・アードレイ: 『カレイドスコープ・オブ・レインボウズ』 (1976)
ニール・アードレイ: 『ハーモニー・オブ・ザ・スフィアーズ』 (1978)
Various Artists: NDR Jazzworkshop '77 (1977)
Various Artists: Frauen – Power (1985)
Various Artists: Perspective '92 (1991)
Various Artists: Sisters - Women's Music from Celestial Harmonies (1996)
* Various Artists: The Sound Inside / Music and Architecture (1998)

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