バール (モンテネグロ)

モンテネグロの港湾都市、バール

バールは、モンテネグロの南部に位置するアドリア海沿岸の重要な港湾都市であり、同名の基礎自治体の中心地です。モンテネグロ語やセルビア語では「Bar/Бар」と表記され、イタリア語では「Antivari」、アルバニア語では「Tivari」など、様々な言語で異なる名前で呼ばれてきました。この都市の名前は、アドリア海を挟んで対岸にあるイタリアの都市バーリとの関連が指摘されています。

古代から現代までの歴史

バール周辺では、新石器時代以前から人々が生活していたことが考古学的な発見から明らかになっています。古代にはイリュリア人が居住し、その痕跡も市内で発見されています。古代ローマ時代には町としてのバールは存在しませんでしたが、6世紀にローマの要塞が再建され、10世紀にはアンティバリウムとして記録に登場しました。その後、スラヴ人が侵入し、9世紀には教区が設立されました。

10世紀にはドゥクリャ公国が成立し、バールはその中心地となりました。ドゥクリャ王国はビザンティン帝国から独立し、激しい戦いを繰り広げました。12世紀には一時的にビザンティン帝国の支配下に戻りますが、その後、セルビア王国の支配下に組み込まれました。

14世紀頃になると、バールの支配者は頻繁に変わりました。1443年から1571年まではヴェネツィア共和国の支配下に置かれ、都市国家として自治を謳歌しました。中世のバールはアドリア海南部の中心都市として栄え、独自の都市権や硬貨の鋳造権を有していました。このヴェネツィア支配の影響で、18世紀まで一部でヴェネツィア語が使われていました。

1571年にはオスマン帝国の支配下に入り、1878年までその支配が続きました。しかし、正教の大主教区は維持されました。1878年のベルリン会議の結果、モンテネグロはバールとウルツィニの領有権を獲得し、海への道が開かれました。

1904年には、イタリアの発明家マルコーニによってバールとバーリ間の無線通信が成功しました。1908年には、モンテネグロ初の鉄道がバールからスカダル湖畔まで開通しました。第一次世界大戦中にはオーストリア＝ハンガリー帝国に占領されましたが、戦後はユーゴスラビア領となりました。1920年代から観光が盛んになり始め、第二次世界大戦中はイタリアに占領されましたが、戦後に解放されました。1959年には標準軌の鉄道が開通し、首都ポドゴリツァと結ばれました。

1979年には大規模な地震が発生し、バールは壊滅的な被害を受けました。旧市街の主要な機能は、沿岸部に建設された新市街に移転しました。

地勢と気候

バールは年間を通して温暖な気候で、年間平均270日の晴天日に恵まれています。夏は平均気温が28℃、冬でも10℃程度と温暖な地中海性気候です。年間を通して南風が吹き込み、心地よい風がアドリア海から届きます。豊かな植物相と動物相も特徴で、沿岸部は叢林で覆われ、内陸部には山々が連なっています。オリーブ、ブドウ、イチジク、ザクロなど、様々な果物も栽培されています。

バールには樹齢2000年を超えると言われる古いオリーブの木があり、観光客に人気です。また、シュコダル湖は270種類の鳥類が生息する場所として知られており、特にペリカンの重要な生息地となっています。

人口と民族構成

バール基礎自治体には42,048人、バール市街には17,727人（2011年現在）が居住しています。民族構成は多様で、様々な民族が共存しています。

宗教

バールは多民族なだけでなく、様々な宗教が争いなく共存しています。正教が多数派ですが、ローマンカトリックやイスラム教も信仰されています。バールはモンテネグロの重要な聖人であるヨヴァン・ウラディミールの生誕地でもあり、多くの教会や修道院があります。

経済

バールの経済は、バール港、ベオグラード＝バール鉄道、ソジナトンネルが重要な役割を果たしています。バール港は、年間500万トンもの貨物を取り扱い、モンテネグロの貿易の大部分を担っています。ベオグラード＝バール鉄道は、観光客をアドリア海沿岸に運び、バール港に新たな市場を提供しています。

食品産業では、50年以上続くプリモルカ社が、オリーブオイルやザクロジュースを製造しています。バール自治体内には95,000本のオリーブの木と80,000本の柑橘類の木が栽培されています。中小企業の創業や新しい工業地区の推進も行われています。

交通

バールは、フェリーでイタリアのバーリやアンコーナと結ばれています。モンテネグロのアドリア海沿岸の町とも航路で結ばれています。2006年にはソジナトンネルが開通し、首都ポドゴリツァへのアクセスが向上しました。また、ベオグラード＝バール鉄道の終着駅でもあります。最寄りの空港はポドゴリツァ空港です。

みどころ

バールには、6世紀に建てられたモンテネグロ最古のキリスト教建築であるトリコンチ教会をはじめ、多くの歴史的な遺産が残されています。中世の重要な文学作品である“Ljetopis popa Dukljanina”もこの地域で生まれました。ラタツ半島には、ベネディクト会に属する修道院群があり、ストモレにはヴェネツィアとオスマン帝国の城塞跡があります。また、19世紀に建てられたニコラ公宮殿は、現在では美しい公園として市民に親しまれています。

行政区分

バール基礎自治体は12のコミューンと83の集落に分かれています。

姉妹都市

バールの姉妹都市としては、セルビアのボル、クラグイェヴァツ、ポジャレヴァツが挙げられます。

バールは、歴史、文化、自然、経済が調和した魅力的な都市です。訪れる人々を魅了する様々な魅力が詰まっています。

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