パイノパイノパイ

「パイノパイノパイ」：大正浪漫と世相を映す俗謡

「パイノパイノパイ」は、大正時代に一世を風靡した俗謡です。軽快なリズムと当時の世相を反映した歌詞は、多くの人々の心を掴み、現在でもその名を知られています。

誕生秘話：19歳の若き作詞家と父との出会い

この歌は、演歌師の添田知道（添田さつき）によって作詞されました。1918年発表のこの作品は、元々はヘンリー・クレイ・ワーク作曲の「ジョージア行進曲」を基調としています。しかし、添田が作詞する以前から、日本では「ますらたけを」の題名で軍歌として、あるいは救世軍の街宣活動でも演奏されるなど、広く親しまれていました。

添田が歌詞を創作するきっかけは、父・添田唖蝉坊との何気ない会話でした。売文社に勤めていた添田が、ある日父の元に「のんき節」の掲載許可を求めた際に、父の気まぐれな提案から始まりました。当初は洋食屋のメニューを羅列したような仮歌でしたが、唖蝉坊がメロディーを口ずさむと、添田の幼少期の記憶が蘇ります。神奈川県大磯の実家に預けられていた頃、遊び仲間から「ますらたけを」のメロディーで囃し立てられていた記憶が、鮮やかに脳裏に浮かんだのです。小説家志望で歌への抵抗もなかった添田は、作詞経験がないながらも、このメロディーに新たな言葉を乗せることに挑戦しました。

その夜、宿直の最中に一気に書き上げた歌詞には、父の「どうせ浮世はでたらめ」という人生観が反映されています。「デタラメ」が「ラメ」となり「ラメチャン」と変化する囃子言葉は、軽妙洒脱で、当時の世相を反映した独特の雰囲気を持っています。この時、添田はわずか19歳でした。

「平和節」への変遷と社会風刺

「パイノパイノパイ」の大流行を受けて、新たな歌詞への需要が高まりました。そこで、添田は1919年に「平和節」を発表します。この歌詞には、京阪神・中京・吉原の風俗や、第一次世界大戦後のパリ講和会議、そして戦勝気分などが織り込まれています。特に3番の歌詞「市長のいうことよくきいて豆粕食うこと痩せること」は、米価高騰による市民の苦境と、東京市長田尻稲次郎の政治への批判を込めたものです。また、4番の「ボロ電車」は、当時の東京市電を皮肉った表現といえます。

多様な解釈と現代への継承

「パイノパイノパイ」は、時代を超えて愛され続けています。その軽快なメロディーと、時代を反映した歌詞は、多くのアーティストによってリメイクされ、替え歌として歌い継がれてきました。なぎら健壱、ザ・ドリフターズ、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットなど、様々なアーティストが独自の解釈でこの曲をカバーし、現代社会への風刺やメッセージを込めています。CMソングや映画主題歌として使用された例も多く、その人気は衰えることを知りません。

例えば、1971年の東宝映画『日本一のショック男』では植木等が「パイノパイノ日本」として、また、1974年の松竹映画『ザ・ドリフターズの極楽はどこだ!!』ではザ・ドリフターズが「ドリフの極楽はどこだ」として主題歌に使用しました。その他にも、ミツカン「味ぽん」、ロッテ「パイの実」のCMソングとしても使用され、幅広い世代に親しまれています。

東京の街並みを彩る歌詞

歌詞には、丸の内、日比谷公園、両議院、帝劇、警視庁、馬場先門、海上ビルヂング、東京駅、浅草、浅草寺、雷門、仲見世通り、花屋敷、十二階（凌雲閣）、そして当時の庶民の生活を表す寿司、おこし、牛鍋、天ぷら、満員電車など、当時の東京の街並みや生活が生き生きと描かれています。これらの描写は、時代背景を理解する上で重要な手がかりとなります。

結び

「パイノパイノパイ」は、単なる流行歌ではなく、時代を映す鏡として、そして人々の心を繋ぐ音楽として、現在も生き続けています。その軽快なメロディーと、時代を超えて共感を呼ぶ歌詞は、これからも多くの人々に愛され、歌い継がれていくことでしょう。 軽妙な表現と社会風刺が織りなすこの俗謡は、大正時代の活気と複雑さを凝縮した、まさに時代を代表する名曲と言えるでしょう。

もう一度検索