パスカル・ペレス (ボクサー)

パスカル・ニコラス・ペレス

南米アルゼンチンのメンドーサ州に1926年3月4日に生を受けたパスカル・ニコラス・ペレスは、同国が誇る偉大なプロボクサーである。そのキャリアを通じて、卓越したスキルと破壊的なパンチを武器に、軽量級の頂点で輝かしい足跡を残した。彼は1977年1月22日に50歳でこの世を去ったが、その功績は今なお語り継がれている。

ペレスのアマチュア時代のハイライトは、1948年にイギリスのロンドンで開催されたオリンピックだろう。この大会のフライ級で、彼は見事なパフォーマンスを披露し、金メダルを獲得。アルゼンチンに栄光をもたらすと同時に、プロでの活躍への期待を一身に背負うこととなった。

1952年、鳴り物入りでプロの世界に足を踏み入れたペレスは、その期待に違わぬ圧倒的な強さを見せつけた。デビュー以来、彼は破竹の勢いで勝ち星を重ね、驚異的な18連続KO勝利という記録を打ち立てた。その右拳から放たれるパンチは文字通り相手をなぎ倒し、軽量級では稀に見るハードパンチャーとして瞬く間にその名を轟かせた。

世界タイトル挑戦への道を快進撃する中で、ペレスは日本のボクシングファンにとって忘れられない存在となる。1954年7月24日、アルゼンチンで彼は当時の世界フライ級チャンピオンであった日本の英雄、白井義男とノンタイトル戦で対戦。この試合は引き分けに終わり、ペレスのプロデビュー以来続いていた23連勝はここでストップすることとなった。しかし、この対戦は両者の間に因縁を生み、後の世界タイトルマッチへと繋がっていく。

同年11月26日、ペレスは満を持して初来日。後楽園球場に特設されたリングで、白井義男が保持する世界フライ級王座に挑戦した。緊迫した戦いの末、ペレスは判定で勝利を収め、見事世界チャンピオンの座に就いた。この勝利は、日本ボクシング界にとってはタイトル流出という大きな出来事であり、ペレスの名は日本のファンの間にも広く知れ渡ることになった。

チャンピオンとなったペレスは、その強さを世界に証明し続けた。1955年5月30日には、再び後楽園球場で白井義男との再戦が実現。この試合でペレスは5ラウンドKOという圧倒的な形で白井を退け、初防衛に成功。日本のファンにその強烈なパンチをまざまざと見せつけた。その後も彼はベルトを死守し続け、レオ・エスピノサを判定（1956年1月11日）、オスカー・スアレスを11回TKO（同年6月30日）、Dai Dowerを1回KO（1957年3月30日）、ヤング・マーティンを3回KO（同年12月7日）、ラモン・アリアスを判定（1958年4月19日）、Dommy Ursuaを判定（同年12月15日）で下すなど、強豪挑戦者たちを退け、防衛回数を積み重ねていった。

日本のリングとの縁は続き、1959年1月16日には、ノンタイトル戦で日本の矢尾板貞雄に判定負けを喫し、プロキャリア初の敗北を経験した。しかし、同年2月18日には米倉健志とのノンタイトル戦に判定勝ち。さらに同年8月10日には、米倉からの世界タイトル挑戦を判定で退け、8度目の防衛に成功した。そして、同年11月5日には大阪プールに特設されたリングで、キャリア初黒星をつけられた因縁の相手、矢尾板貞雄との世界タイトルをかけた再戦に臨んだ。この試合も激戦となったが、ペレスは13回TKOで矢尾板を下し、9度目の防衛を果たした。

長きにわたりフライ級の頂点に君臨したペレスだったが、1960年4月16日、タイのポーン・キングピッチに判定で敗れ、遂に世界王座から陥落した。同年9月22日に行われたキングピッチとのリターンマッチでも8回TKO負けを喫し、王座返り咲きはならなかった。

その後もリングに上がり続けたペレスだが、1964年3月15日にEugenio Hurtadoに6回TKOで敗れたのを最後に、リングシューズを脱いだ。プロ通算戦績は84勝（57KO）7敗1分けという、そのKO率の高さが際立つ輝かしいものだった。

パスカル・ニコラス・ペレスは、オリンピック金メダルと世界王座、そしてそれを9度も防衛した偉大な実績、さらに驚異的なKO能力で、ボクシング史にその名を刻んでいる。彼の功績は高く評価され、国際ボクシング名誉の殿堂博物館にも顕彰されている。50歳という比較的若い年齢で亡くなったことは惜しまれるが、アルゼンチンが生んだこの不世出のチャンピオンの記憶は、これからも多くのボクシングファンに語り継がれていくであろう。

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