パタスモンキー

パタスモンキー（学名：Erythrocebus patas）は、哺乳綱霊長目オナガザル科に分類されるサルの一種です。一般的にパタスモンキー属 (Erythrocebus) は本種のみで構成されるとされてきましたが、近年の研究により、この属を2～3種に分割すべきだという学説が有力視されています。別名ではパタスザルとも呼ばれます。

分布

本種はアフリカ大陸の広範囲にわたって分布しています。その生息域は、セネガルからエチオピア、ケニア、タンザニアを経て、南はコンゴ民主共和国の一部にまで及びます。ウガンダ、エチオピア、ガーナ、カメルーン、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、コートジボワール、コンゴ民主共和国、シエラレオネ、スーダン、セネガル、タンザニア、チャド、中央アフリカ共和国、トーゴ、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、ベナン、マリ共和国、南スーダン、モーリタニアといった国々で見ることができます。

形態

体長は通常58センチメートルから75センチメートル、尾の長さは62センチメートルから74センチメートルになります。体重には性差があり、オスは約12キログラムなのに対し、メスは約6キログラムと、メスの方がはるかに小さいのが特徴です。体の背面は鮮やかな赤褐色をしており、「パタス」という名前は、現地語で「赤い」を意味することに由来すると言われています。また、属名であるErythrocebusも「赤いサル」という意味です。腹部や四肢、尾は白色です。顔は黒い皮膚をしていますが、飼育環境下、特に屋内では淡い色になることもあるようです。白い口髭も生えています。

パタスモンキーの最も特徴的な形態は、その細く長い四肢と、短く頑丈な指です。これらの身体的な特徴は、主に地表で生活し、高速で走行することに適応しています。幼獣は生まれた時は明るい褐色をしており、顔もピンク色ですが、生後2か月ほどで大人のような黒い顔になります。オスの陰茎は赤色、陰嚢は明るい青色をしています。

分類

かつてはオナガザル属の亜属として扱われたり、パタスモンキー属内で唯一の種（モノタイプ）として認識されていましたが、近年、遺伝子情報などの分析に基づいて分類が見直されています。特に2017年には、青ナイル川流域に生息する個体群を独立した種 E. poliophaeus として分ける説が提唱されました。さらに2020年には、タンザニア北中部の個体群も E. baumstarki という別の種として扱うべきだとする見解がIUCNレッドリストで採用されています。

現在、日本モンキーセンターの霊長類和名リストでは、これらの分類に基づいて3種として扱われています。

Erythrocebus baumstarki （ミナミパタスモンキー）：Southern patas monkey
Erythrocebus patas （パタスモンキー）：Patas monkey （狭義）
Erythrocebus poliophaeus （ブルーナイルパタスモンキー）：Blue Nile patas monkey

生態

主な生息環境は、アカシアの低木が点在するサバンナや草原です。樹上での生活よりも地表での活動を好む、強い地表棲傾向を示します。夜間は捕食者から身を守るため、低木の上などで休息します。

社会構造としては、通常1頭の成熟したオスと、複数のメスおよびその子どもたちからなる「単雄群（ハレム）」を形成します。群れで移動する際は、まるで軍隊のように整然と行進する様子が見られることから、「Military」や「Hussar（軽騎兵）」といった別名で呼ばれることもあります。行動圏は非常に広く、50平方キロメートルに達することもあります。

驚異的な走行速度もパタスモンキーの生態における特筆すべき点です。短距離であれば時速55キロメートルに達するとされており、これは霊長類の中で最も速い記録です。この速度を利用して捕食者から逃れます。

食性は多様で、主にアカシアなどの木の葉、草の芽、花、果実、木の樹脂、キノコなどを食べますが、バッタなどの昆虫や、場合によっては鳥類やその卵、爬虫類といった動物質のものも捕食します。

繁殖は胎生で、妊娠期間は約5ヶ月半です。通常、一度に1頭の子どもを産みます。特徴的なのは、多くの場合、昼間に出産することです。これは、夜行性の捕食者から逃れるため、あるいは日中の休息中に群れから遅れないようにするためだと考えられています。性成熟は、オスが生後約4年、メスは生後1年半から3年半、多くの個体では生後3年以内に最初の出産を迎えます。

人間との関係と保全状況

パタスモンキーの東部に生息する個体群は、「Nisnas」という名称で呼ばれることもあります。実験動物として科学研究に利用されることもあります。

広義のパタスモンキー全体としては、絶滅の危険性は比較的低いと考えられていますが、個々の地域や分割された種レベルでは状況が異なります。農地の開発や家畜の過放牧による生息地の破壊、人間の生活圏との衝突による「害獣」としての駆除、そして食用のための狩猟などにより、全体的な個体数は減少傾向にあります。

国際的な取引を規制するため、1977年には霊長目全体がワシントン条約の附属書IIに掲載され、商業的な国際取引には輸出国の許可が必要となっています。日本国内では、2018年時点でエリュトロケブス・パタスとして特定動物に指定されており、飼育には特別な許可が必要です。かつて、日本では1959年に恩賜上野動物園で飼育下繁殖の成功例があります。

IUCN（国際自然保護連合）のレッドリストでは、2020年版以降、パタスモンキーを3つの独立種として評価しています。

E. baumstarki （ミナミパタスモンキー）は、生息数の激減からCRITICALLY ENDANGERED（近絶滅種）に指定されています。
E. patas （パタスモンキー・狭義）は、NEAR THREATENED（準絶滅危惧）と評価されています。
E. poliophaeus （ブルーナイルパタスモンキー）は、情報不足（DATA DEFICIENT）とされており、保全状況の評価に必要なデータが不足している現状です。

これらの評価からもわかるように、パタスモンキー類全体の保全のためには、さらなる生態調査と生息地保全の取り組みが重要となっています。

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