パッサウ条約

パッサウ条約は、1552年にローマ王フェルディナント（後の神聖ローマ皇帝フェルディナント1世）とザクセン選帝侯モーリッツの間で結ばれた重要な条約です。この条約は、カトリックとプロテスタントの共存を認め、後のアウクスブルク宗教平和令の雛型となりました。

背景

シュマルカルデン戦争において、皇帝カール5世はプロテスタント勢力に対して圧倒的な勝利を収めました。しかし、その後の帝国統治において、カール5世は専横的な姿勢を強め、帝国内の諸侯から強い反発を招きました。特に、シュマルカルデン戦争で皇帝側についたザクセン選帝侯モーリッツが、1552年に反皇帝へと転じ、カール5世が滞在していたインスブルックへと軍を進めたことは、大きな転換点となりました。この時、皇帝を支持する諸侯がほとんどいなかったことは、帝国内における皇帝の孤立を明白に示す出来事でした。

条約締結

このような状況下で、モーリッツとローマ王フェルディナント（皇帝カール5世の弟であり、プロテスタントに対して兄よりも融和的な立場を取っていました）の間で、パッサウ条約が締結されました。この条約により、カトリックとプロテスタントの両宗派の平和共存が確認され、それまで暫定的に定められていたアウクスブルク仮信条協定は廃止されることになりました。カール5世はパッサウ条約に反対しましたが、事態が好転しないと判断し、ドイツを離れてネーデルラントへと移りました。

その後

しかし、パッサウ条約の受け入れに反対したブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯アルブレヒト・アルキビアデスが反乱を起こしました。これに対し、ヴォルフェンビュッテル侯ハインリヒ2世と共に鎮圧に向かったモーリッツは、戦死するという悲劇に見舞われました。アルブレヒト・アルキビアデスは1554年に敗北し、帝国追放処分となりました。

アウクスブルク宗教平和令へ

1555年、パッサウ条約の内容を前提として、フェルディナントの名のもとで帝国議会における最終決定が成立しました。こうして定められたアウクスブルク宗教平和令は、帝国内における宗教対立を一時的に収拾するとともに、領邦教会体制の発展を促進することになりました。この平和令によって、「領主の宗教が領民の宗教を定める」という原則が確立され、各領邦の君主が自領内の宗教を選択する権利を持つことになったのです。

パッサウ条約は、その後のヨーロッパの宗教史、政治史に大きな影響を与えた出来事として、重要な意味を持っています。

参考文献

成瀬治ら編 『世界歴史大系　ドイツ史1』 山川出版社、1997年

関連項目

第二次辺境伯戦争

もう一度検索