パット・ティルマン

パトリック・ティルマン：英雄の光と影

パトリック・ダニエル・"パット"・ティルマン（1976年11月6日 - 2004年4月22日）は、アメリカンフットボール選手としてNFLのアリゾナ・カージナルスで活躍後、アメリカ陸軍に志願し、アフガニスタンで戦死した人物です。彼の生涯は、愛国心、犠牲、そして戦争の複雑さを象徴するものとして、今もなお語り継がれています。

NFL選手から兵士へ

カリフォルニア州フリーモントで生まれたティルマンは、アリゾナ州立大学でラインバッカーとして活躍しました。180cmという体格は、ラインバッカーとしては小柄ながらも、その才能と努力でパシフィック・テン・カンファレンスの最優秀守備選手に選ばれるまでになりました。学業にも励み、GPA3.84という優秀な成績で卒業しています。

1998年のNFLドラフトでアリゾナ・カージナルスに入団。セイフティに転向し、1年目から先発出場を果たしました。セントルイス・ラムズからの高額オファーを断り、カージナルスに留まったことからも、彼のチームへの忠誠心が伺えます。2000年には、155タックル、1.5サック、2ファンブルフォース、2ファンブルリカバー、9パスブロック、1インターセプトという素晴らしい成績を記録し、オールプロにも選出されました。

しかし、2001年のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、彼はNFL選手としてのキャリアを捨て、アメリカ陸軍に入隊することを決意します。年俸51万2000ドルの契約を蹴り、愛国心から祖国のために戦う道を選んだのです。

戦場での死と隠蔽

弟のケビンと共に陸軍に入隊したティルマンは、第75レンジャー連隊に配属され、2003年のイラク戦争に参加。その後、アフガニスタンに派遣されました。2004年4月22日、パトロール中に友軍の誤射により命を落としました。

当初、軍は彼の死を英雄的なものとして発表しました。パキスタン国境付近で武装勢力との戦闘で戦死したとされ、葬儀は全米で放送されました。しかし、実際には友軍の誤射によるものであり、その事実は遺族に5週間も伏せられていました。

政府改革委員会の公聴会で、アブグレイブ刑務所での捕虜虐待などの不祥事に続き、ティルマンの死の真相が明らかになった場合、イラク戦争やアフガニスタンでの軍の活動への支持低下を懸念したのではないかという指摘がなされました。また、彼の死後、義務付けられている検死解剖も行われず、身につけていた装備品などがすぐに処分されていたことも判明しました。

死後の名誉と遺産

ティルマンの死後、フーバーダムのバイパスに架かる橋に彼の名前が付けられました。NFLでは、全チームの選手がヘルメットに彼を記念したステッカーを付けてプレーしました。アリゾナ・カージナルスとアリゾナ州立大学では、彼の背番号40と42がそれぞれ永久欠番となっています。NFLは25万ドルを出して米国慰問協会を設立し、アフガニスタンのバグラム空軍基地に最初のUSOセンターが建設されました。

彼は、銀星章、パープルハート章など、数々の勲章を授与されています。

パトリック・ティルマンの物語は、英雄的行為と悲劇的な死、そしてその後の隠蔽工作という、複雑な要素が絡み合っています。彼の死は、戦争の真実、政府の責任、そして国民の愛国心について、深く考えさせられる出来事として、記憶されるでしょう。

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