パドヴァのマルシリウス

マルシリウスについての詳細

生涯の概要

マルシリウス・ダ・パドヴァ（Marsilio da Padova）は、中世イタリアにおける重要な哲学者であり神学者でありました。彼は1290年から1343年の間に生き、主著『平和の擁護者』において人民主権の理論を先駆けて提唱しました。彼はパドヴァで生まれ、医学や哲学を学び、次第にその思想が彼の政治的活動にも影響を与えるようになりました。

前半生

マルシリウスは、パドヴァ大学で医学を学んだ後、1312年にはパリ大学に移り、さらにそこの学長も務めるなど、学問の分野での名声を確立します。1316年には故郷に戻り、医業に復帰しましたが、彼の思想的成長は医療ではなく政治に向かうことになります。1324年には最も著名な著作である『平和の擁護者』を執筆し、この作品を通じて国家と教会の関係についての深い洞察を示しました。

政治的論争と後半生

1323年、教皇ヨハネス22世とバイエルン大公ルートヴィヒ4世との間で大きな論争が勃発します。この闘争の中で、マルシリウスはルートヴィヒ4世を支持し、彼の庇護を求めました。1326年にはルートヴィヒ4世の宮廷に出向き、彼の政治理論を献上した際、当初その内容に驚きつつも、次第に支持を表明していきました。結果的にマルシリウスは1327年に破門され、以降はルートヴィヒ4世の側近として活動します。

彼の発表した『平和の擁護者』では、教皇が人民によって選ばれるべきであり、国家の権威が教会に優越すべきだと主張しました。この理論は、彼が当時の教権に対抗する先駆的な考えを持っていたことを示しています。その後、彼はローマで開催された人民の集会を通じてルートヴィヒ4世を皇帝として宣言させるなど、重要な役割を果たしました。

思想の展開

マルシリウスの思想は、特に人民主権論における革新性で評価されています。彼は、社会の自律性を重視し、国家が完全な共同体であるとの考え方を展開しました。彼にとって、教会の政治的介入は社会にとって悪影響を及ぼすものであり、各権力の一元的な支配が望ましいとされたのです。

また、彼はアヴェロエス主義に影響を受けつつ、信仰と理性の分離を声高に主張しました。彼の視点では、信仰によって達成される理解と経験によって得られた確実性は別のものであり、そのため両者を明確に区別する必要があるとされました。これらの思想は、トマス主義に対する明確な対抗軸となりました。

公会議主義と法思想

信仰についても、マルシリウスはその内面的な側面を重視し、教会は共同体全体の一部として存在すべきと論じました。彼は、公会議を通じて教会法が制定されるべきだとし、教皇権は歴史的かつ人為的な制度に過ぎないと指摘しました。

法に関しては、彼は実定法の重要性を強調し、人民によって制定されることがその根拠であると述べました。実定法こそが強制力を持つ法であり、自然法や神法は実定法の枠組みの中でのみ機能するとしました。彼はまた、国家における正義と利益の実現が法の目的であるとし、法そのもので人民に対する責任が問われる必要があると考えていました。

晩年と影響

マルシリウスの晩年の記録は乏しく、彼がいつ、どのようにして亡くなったのかは明確ではありません。ただ、教皇クレメンス6世が彼の死を認識した時期から推測するに、1343年にはすでに彼は世を去っていたとされます。彼の思想は、後の政治哲学に多大な影響を与え、特に人民主権と国民国家の理論の形成に寄与したことが評価されています。

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