パナール M3

パナール M3：輸出市場で活躍したフランス製装輪装甲車

パナール M3は、フランスのパナール社が1960年代に輸出市場向けに開発した4×4輪駆動の装輪装甲兵員輸送車ファミリーです。パナール社が当時量産していたAML-60/90偵察装甲車と多くのコンポーネントを共有しており、高い部品互換性を持つことが特徴です。

開発の経緯

パナールM3の基本設計構想は、1959年にAML-60/90装甲車と共にフランス造兵廠(DEFA)の要求仕様に基づいて提案されました。フランス陸軍には採用されませんでしたが、AML-60/90装甲車が国内外で成功を収めたことを受け、1967年頃から輸出市場向けの試作車の開発が始まりました。

1969年8月には最初の試作車が完成。AML装甲車と同じ車台を使用しつつ、装甲兵員輸送車としての使いやすさを考慮し、エンジンを車体後部から前方へ移動。これにより、車体後部に兵員スペースを確保しました。ホイールベースも若干延長されています。これらの変更にも関わらず、AML装甲車との高い部品互換性は維持されました。

当初の試作車は垂直面で構成された箱型の形状でしたが、後に傾斜装甲を用いた車体に変更され、銃眼やハッチが増設されました。この改良型が1971年から量産されています。

輸出市場での成功

パナールM3は、AML装甲車を既に導入していたサウジアラビアとイラクへの売り込みから始まりました。サウジアラビアが最初の150両を注文し、続いてイラクが60両を発注。その後、ポルトガル、スペイン、アイルランド、レバノン、ザイールなどからも注文が相次ぎました。1978年にはアラブ首長国連邦が198両を発注し、最大のユーザーとなりました。

1986年までに合計1,180台のM3シリーズが生産され、26カ国に輸出されました。旧式化が進んだため、パナール社は後継としてパナール バッファロー装甲車を開発しましたが、バッファローは輸出市場で成功せず、少数の生産に留まりました。

特徴

高い部品互換性: AML-60/90装甲車と95%の部品互換性があり、整備性に優れています。
水陸両用能力: 推進用スクリューは装備していませんが、河川などを浮航して渡ることができます。
豊富な派生型: 装甲兵員輸送車型(VTT)を基本に、装甲救急車、回収車、工兵車、指揮車両、自走砲型など、様々な派生型が存在します。

形式・派生型

M3 VTT: 基本となる装甲兵員輸送車型。
M3 VDA: 20mm機関砲を搭載した自走式対空砲型。
M3 VAT: 修理/回収車両型。
M3 VLA: ドーザーブレードを装備した工兵車両型。
M3 VPC: 無線機などを搭載した指揮通信型。
M3 VTS: 装甲救急車型。
M3 VTM: 迫撃砲を牽引する砲兵トラクター型。
M3 VPM: 81mm迫撃砲を搭載した自走迫撃砲型。
M3 VTT 60 B: 60mm迫撃砲を搭載した自走迫撃砲型。
M3 VTT TH: HOT対戦車ミサイル発射機を搭載した対戦車車両。
M3 Internal Security: 治安維持、暴徒鎮圧用車両。
ボスボック: 南アフリカ共和国でライセンス生産されたM3 VTT。

運用史

パナールM3は、中東やアフリカを中心に多くの国で採用され、紛争地帯でも使用されました。

レバノン内戦: レバノン軍に引き渡されたM3 VTTが、政府軍だけでなく反政府側の民兵組織にも使用されました。
アンゴラ独立戦争: ポルトガル軍がM3を運用し、一部がアンゴラ民族解放戦線に鹵獲されました。
リビア内戦: モロッコ軍のM3が活動し、一部車両はM101 105mm榴弾砲を搭載する改造が施されました。

運用国

多くのアフリカ、中東、中南米の国々で運用されました。詳細は元情報を参照してください。

パナールM3は、その汎用性と信頼性から、多くの国で長年にわたり運用された装輪装甲車です。

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