パパリンコ物語

『パパリンコ物語』は、漫画家・江口寿史氏による、1980年代を舞台にした未完のギャグ漫画です。1985年から1986年にかけて『ビッグコミックスピリッツ』で連載されましたが、多くの休載を挟み、全10回で第一部完として突然終了。第二部の再開は実現せず、現在も未完のままです。

この作品は、江口氏のポップで独特な画風が全開した作品として知られています。当時の世相を反映した描写や、個性的なキャラクターたちが織りなすストーリーは、多くの読者を魅了しました。しかし、連載当時から有名だった江口氏の「原稿落とし」癖により、連載は頻繁に中断。わずか5回連載された段階で、既に総集編が発行されるという異例の事態となりました。担当編集者であった江上英樹氏は、急遽空いたページを埋めるため、竹熊健太郎氏と相原コージ氏を起用し、『落日新聞』を掲載。これが後の大人気企画『サルでも描けるまんが教室』へと繋がったという逸話も残っています。

物語は、新潟から上京してきた青年・有馬三郎が、ひょんなことから文江が営む飲み屋「文」の2階に住むところから始まります。三郎には、14歳の娘・リンコがいます。ある日、三郎の実家から父親が訪れ、母親が危篤だと告げます。リンコと共に実家へ戻った三郎でしたが、母親の容態が安定したのを見届けると、リンコを実家に残し、一人「文」に戻ります。

主要登場人物は、美青年で過去にやんちゃな青春時代を送った三郎、生意気だが可愛らしいリンコ、和装が似合う魅力的な飲み屋経営者・文江とその妹・都、そして三郎の資産家である実家一家など、個性的な面々が揃っています。特に三郎は、過去に15歳でリンコを産み、家出した過去を持ち、演歌歌手になる夢を抱いています。また、文江は江口氏の以前の作品にも登場するキャラクターであり、スターシステムが用いられています。

三郎の父親である有馬十郎は、大財閥の総帥という設定で、世界のごく一部の人間しか理解できないようなギャグを連発するなど、独特の存在感を放っています。一方、三郎の実家には、サイに乗る長男・四郎、シマウマに乗る三男・二郎、カンガルーに乗る長女・一子と、個性的な兄弟姉妹がいます。一子は、典型的な意地悪なお嬢様という設定で、リンコが通う聖ハレルヤ学園の生徒でもあります。

物語は、三郎の夢、リンコとの関係、そして「文」での人間関係など、様々な要素が絡み合い、コミカルな展開を見せていきます。しかし、残念ながら物語は未完に終わっています。

『パパリンコ物語』は、単行本化されていませんでしたが、2016年には『芸術新潮』で第1話が、2023年には『This is 江口寿史!!』というムック本で第1話から第3話までが再録されました。この作品は、江口寿史氏の代表作の一つであり、その未完という点も相まって、多くのファンを魅了し続けています。また、1986年にはミスタードーナツで『パパリンコ物語』のイラストが描かれたグラスがプレゼントグッズとして制作されたことも特筆すべき点です。

なお、本作以外にも、『エイジ』『エリカの星』『ラッキーストライク』『うなじ』など、江口氏には未完の作品が多く存在します。これらの作品は、江口氏の独特な作風と才能を垣間見ることができる、貴重な資料と言えるでしょう。これらの作品群から、彼の創作活動の一端を垣間見ることができます。

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