パラジクロロベンゼン

パラジクロロベンゼン：特性、用途、安全性、そして社会問題

パラジクロロベンゼン（PDB、別名パラジクロルベンゼン、p-DCB、1,4-ジクロロベンゼン）は、ベンゼン環に2つの塩素原子がパラ位に結合した有機化合物です。分子式はC₆H₄Cl₂、分子量は147です。

物理的特性と主な用途

PDBは、常温で白い結晶状の固体で、特異な強い臭いを持ちます。融点は53℃、沸点は174℃と比較的低く、室温でも空気中に徐々に昇華します。この揮発性と特有の臭気が、防虫剤や消臭剤としての利用につながっています。

PDBは、衣類害虫（カツオブシムシなど）やカビの発生を抑制する防虫剤として、またトイレやゴミ箱などの消臭剤として広く利用されてきました。日本では「パラゾール」や「ネオパラエース」といった商品名で親しまれており、海外でも同様の商品が販売されています。かつては中学校の理科実験で融点測定に用いられることもありましたが、安全性への配慮から現在では他の物質に置き換えられています。さらに、ごく少量ですが、特定のエンジニアリングプラスチックの原料としても使用されています。

健康への影響と安全性

一般的に、PDBは通常の使用量であれば人体への悪影響は報告されていません。しかしながら、高濃度への曝露は、めまい、頭痛、肝機能障害などの健康被害を引き起こす可能性があります。特に、長期間にわたる高濃度曝露は注意が必要です。

PDBは、乳幼児が誤飲するリスクが高いことから、家庭での保管には細心の注意が必要です。子供の手の届かない場所に保管し、飲食物と間違えないよう専用の容器を使用することが重要です。誤飲した場合は、直ちに医療機関に連絡することが大切です。なお、誤飲時の応急処置として牛乳を飲ませることは避けてください。PDBは脂溶性のため、牛乳の脂肪分によって吸収が促進される可能性があります。

PDBへの曝露は、尿や血液中の代謝物である2,5-ジクロロフェノールの濃度を測定することで評価できます。尿中での検出は、直近1～2日以内の曝露を示唆します。

アメリカ合衆国環境保護庁（EPA）は、飲料水中のPDBの最大許容濃度を75μg/Lと定めています。また、労働安全衛生庁（OSHA）は、職場環境における空気中のPDB濃度の最大許容濃度を、1日8時間、週40時間労働を基準に75ppmと定めています。

カップ麺における検出騒ぎ

2008年、日本でカップ麺からPDBが検出され、健康被害が報告される事件が発生しました。調査の結果、防虫剤とカップ麺を近接して保管することで、PDBが包装材などを介してカップ麺に移行することが判明しました。この事件を受け、カップ麺の容器材質の改良や、防虫剤と食品の保管方法に関する注意喚起が行われるようになりました。

PDBの異性体

PDB以外にも、o-ジクロロベンゼン（1,2-ジクロロベンゼン）とm-ジクロロベンゼン（1,3-ジクロロベンゼン）という異性体が存在します。o-ジクロロベンゼンは無色から黄色の液体で、独特の臭いを持ち、殺虫剤や溶媒として使用されています。m-ジクロロベンゼンは無色の液体で、農薬や医薬品の製造中間体として用いられています。これらの異性体も、PDBと同様に、取り扱いには注意が必要です。

まとめ

PDBは、防虫剤や消臭剤として広く利用される一方で、高濃度への曝露は健康被害をもたらす可能性があります。適切な使用方法と保管方法を守り、万が一の誤飲には迅速な対応が求められます。また、食品との接触には十分な注意が必要です。PDBに関する情報は、厚生労働省などの公的機関のウェブサイトで確認できます。

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